同社の2024年3月期における化粧品事業全体の売上高は、6.5%増の612億600万円だった。化粧品の通販事業も伸長しているという。同社の上席執行役員・通販営業本部本部長を務める村岡健吾氏に、成長の要因や、今後の展望などについて聞いた。
──2024年3月期の成長の要因について聞きたい。
2024年3月期は、ECモールなどの「外部通販」では広告を強化する一方で、自社ECにおけるレスポンス広告を半減させ、既存のお客さまの活性化に注力した。その結果、既存のお客さま一人当たりの平均購入金額が約10%上昇した。
お客さまとのつながりの強化に注力している。
LINE・アプリの登録を促進。2024年3月期は、アプリの登録者数が前期比19%増、LINEの登録者数が同6%増となった。
ウェブコンテンツの閲覧数も、前期比で13%増加した。コンテンツの閲覧者は、非閲覧者に比べLTVが高い傾向がある。創刊40周年を迎えた情報誌のリニューアルも実施した。
”商品を磨いて売る”ということは、これまでも取り組んできた。その上で、当社の多面的な、商品やサービス、コンテンツが持っている良さを、お客さまの体験価値として提供していく取り組みの強化を図った。
ファンケルのお客さまの年齢層は、20歳から70歳までと幅広い。お客さまにあわせて、豊富な商品ラインアップの中からどんな商品を、またどんなチャネルでアプローチするかを検討し、その結果どういった価値を提供できるかが重要だと考えている。
──ターゲット別のプログラムも始動した。狙いは。
昨年からは、ターゲット別に、お客さまとの関係性強化を狙ったプログラムをスタートした。
2023年8月に開始した、子育て世代向けの「ママパパSmileプログラム」が順調で、すでに約8万人以上の参加者がいる。LTVも高まってきており、新規も増えている。
今後はシニア向けのプログラム「いきいき応援プログラム」をさらに強化していく。
──リニューアルした情報誌についても聞きたい。
顧客体験価値を上げるために、コンテンツなどの開発にも力を入れた。情報誌のリニューアルも、その一環だった。
情報誌を一新
リニューアル前は、化粧品情報誌・健康食品情報誌の計2誌を展開していた。
2024年1月号からは新たに、40~50代向けの「FANCL Fleu:me(ファンケル フルーミー)」、60代以上向けの「FANCL Fleu:me+(プラス)」を創刊。ページ数も大幅に増やし、「美容」「健康」の情報を一体化した。商品紹介以外のコンテンツも多数掲載している。
LTV10%UP
リニューアル後、「化粧品・健康食品」の併売率は徐々に高まっている。LTVも、1年前に比べ10%ほど向上した。
こうした紙の情報誌は廃止して、季刊誌にするといった案もあった。
当社がデジタルコンテンツを展開するウェブサイト「FANCL CLIP(ファンケルクリップ)」については、年間PV数が800万ほどある。一方で、情報誌は効果などを可視化できない。
ただ、情報誌は、お客さまの体験価値を上げる存在だと考えている。そのため、今年リニューアルを実施した。お客さまとのコミュニケーションを深める上で、重要な接点として展開している。
──今後の展望は。
従来型のマーケティングは立ち行かなくなっていると考えている。
EC市場はレッドオーシャン化している。消費者は大量の情報に囲まれており、無数の選択肢を持っている。
その中で、今までの「商品力を磨く」「デジタルマーケティングの効率化を追求する」だけでは、明らかに通用しなくなっている。
当社は幸いにも、多面的なリソースを有している。化粧品も健康食品も、それぞれ100SKU以上の商品がある。
商品展開やサービス、コンテンツを最大限フル活用することにより、お客さまへの提供価値をさらに強化すべく取り組んでいく。
【記者の目】
ファンケルでは、無添加スキンケアクレンジングオイル「マイルドクレンジングオイル」を展開している。
累計販売本数は、2020年のリニューアル前だけで1億本(2003年4月~2020年9月の集計)を突破。2021年のリニューアル後の売り上げ本数は、2394万本(2021年11月18日~2024年5月末)となっている。直近1年間で算出すると、1日平均2万4145本、4秒に1本が売れている計算だ。
昨年4月に発売した、同シリーズの新製品「マイルドクレンジングオイル<ブラック&スムース>」も好調だ。ヒット商品を次々と生み出し顧客の心をつかむ、同社の製品開発力に今後も注目したい。