化粧品のサロン販売国内最大手のポーラ(本社東京都、及川美紀社長)では、「リアルの体験価値」を提供することで、美容に対する消費意識の高い「美裕層」の開拓につなげる取り組みを推進している。7月には、サロンでの肌分析のシステムを一新。デジタルでの接客頻度も高めるとしている。ポーラの対面販売事業であるTB事業部を統括する安野執行役員は、「サロンショップ数や販売員数の減少は続いているが、顧客体験を重視する店舗が増えつつある。ポーラブランド自体のニーズは高まっており、肌分析やカウンセリング、エステに注力するサロンショップを増やしていく」と話す。安野執行役員に、2024年のポーラの戦略について詳しく聞いた。
リアルの体験価値が指標に
──2023年のポーラの対面販売事業では、サロンと販売員の減少が目立った。状況と対策を聞きたい。
長年続いたコロナ禍が影響し、店舗の減少が続いている。TB事業としては厳しい状況だ。ただ、売り上げの改善も見られる。エステや肌分析、カウンセリングに注力しているサロンショップの売上高は、昨年も好調だった。
2023年はショップ数が減少した。2023年3月末から9ヵ月間で、全国で100店舗減少した。ただ、減少ペースは落ち着いてきている。
販売員であるビューティーディレクター(BD)の数も減少傾向だ。2023年末時点では、BDの数は2万3000人だった。店舗の閉鎖に伴い、BDが辞めてしまうケースもあった。
一方で、顧客体験を重視する店舗が増えてきている。エステやカウンセリングを通してリアルの体験価値を上げるBDやサロンショップが、当社のTB事業の中心となっていくだろう。
新しいBDの獲得は課題の一つだが、個人事業主として活躍できる点は、BDの魅力でもある。多様な働き方が求められる今の時代に、ニーズが高い職業だと思っている。
──2023年には、BDを支援するポーラの社内組織の変更を行なった。どのような成果が出ているか。
販売現場を支援するポーラ社員のコンサルタントの力量が高まってきている。
ポーラでは2023年、日本中の各ユニットのサロンの販売を支援する営業担当チームの組織変更を行った。日本中の各ユニットでは、コンサルタントが、各地域の市場分析やサロンへの導線設計を考え、サロンオーナーやBDにアドバイスするという体制を取るようにした。
コンサルタントは、4半期ごとにコンピテンシー評価を行うようにしているが、業務の質が向上していることが分かっている。
東京にいるコンサルタントが、地方の別のエリアのサロンをサポートするなど、地域をまたいだコンサルタントによる支援も行う事例が出てきている。成功しているサロンの事例を共有しており、他のエリアのサロンにも刺激になっている。
「美裕層」をターゲットに
──若年層の顧客開拓などを目的に、大都市圏にハイグレードなサロン出店を行うビジネスモデルを発表した。詳しく聞きたい。
美容に意識が高い「美裕層」にとって、ポーラブランド自体のニーズやプレゼンスが高まっていることを背景に、新しいサロンの形態を作っていく。
これまで、ポーラのサロンショップは、基本的には、休業日や営業時間などは、サロンオーナーが決めていた。
ターゲットとして考えている「美裕層」は、日中仕事をしていたりして、サロンの営業時間と合わせることができない人が少なくなかった。サロンの営業時間や休業日を、柔軟に設定できるような店舗を作りたいと考えている。
新しい業態のサロンは、満足度の高いハイグレードなエステなど、パーソナルな体験を提供し、顧客の継続・定着・LTV向上を図りたい。
──商品施策についても聞きたい。
2023年8月に発売した「B・A 3Dコンシーラー」が、新規顧客の獲得に寄与している。今までメーク品で新規顧客の獲得につながるケースは少なかったが、ECや百貨店を窓口に、お客さまの幅が広がっている。今年の8月には、同様のコンセプトのチークやアイカラーを発売する予定だ。
今後は、お客さまの体験価値が、大きな武器となる。その武器を磨き、リピート性の高いビジネスモデルを構築する。最終的には、お客さまにサロンに定着してもらうのが狙いだが、幅広い商品、幅広い価格帯の中で、多様な体験価値を提供したい。