女性雑誌「ハルメク」を発行するハルメクは年々、出版業界の活気が失われていく中でも、”シニアに寄り添う”ことを重視することで、売り上げを堅実に伸ばしている。2022年12月号の「ハルメク」の定期購読者数は50万人を超えた。女性誌販売部数は業界1位を誇る。業界をリードする宮澤社長に、これまでを振り返ってもらいつつ、今後注力していくことなどを聞いた。
出版は年々不況
─出版業界について、ここ5~10年前までの変遷を伺いたい。
協会だったり、企業だったりが発表するさまざま調査記事を見ても、出版業界は年々、縮小傾向にある。デジタルの普及に加え、物価の高騰、企業コストの高騰、紙の印刷費の高騰、輸送費の高騰など、他の業界とも似ているところはあると思うが、さまざまなコストが上昇している。当社もコストは年々、数億円単位で上がっている状況だ。このことをきちんと捉えながら、事業の運営を行っている。
─その中で注力していることは何か?
「物販」と有益な情報を発信する「発信力」にはこだわっている。シニアのスマホ使用率も伸びてきており、雑誌とウェブの双方でシニア層に参考となる情報を発信している。雑誌では今月のお薦め商品を紹介するだけではなく、別の雑誌やウェブ上で有益な情報を発信している。
一例を挙げると「スマホ特集」。スマホをどうやって使うのか、スマホを使う際に心配していることなどをウェブなどで発信している。シニア層の中には、スマホを持っているが使い方が不明、使うのが怖いなどの声も寄せられている。それらの課題を解決できる情報を発信している。
─その声はどこから寄せられたものなのか?
「ハルメク」を利用している顧客だ。当社の強みの一つは、顧客とともに商品を開発すること。先ほどのスマホの使用の記事に関しても、当社の社員の想像ではなく、事実にフォーカスして作成している。顧客へのインタビューやアンケートなどを通じて、顧客の生の声を収集している。
─先ほど雑誌とウェブの双方で事業運営に注力すると言っていたが、ウェブの方に焦点を当てるイメージか?
今後のことを考えると、ウェブに力を入れた方がいいとは思うが、決して雑誌を軽視しているわけではない。現在、雑誌の発行部数は約46万部(2023年1~6月平均)になっており、個人的にはまだまだ伸ばしていきたいと考えている。そしてウェブでは今後、有料制度も導入し、収益向上を目指していく。コンテンツの豊富さにも今後さらに、こだわっていく。だが、ベースとして顧客が本当に必要としているものを届けることに変わりはない。
海外展開も視野
─貴社は今後もシニア層をメインターゲットに掲げていくのか。若年層へのリーチは考えていないのか?
今後もシニア層に豊かな情報を届け、必要な商品を発売することに注力していく。シニア層へのリーチは徹底していく。現在は日本でサービスを提供しているが、将来的には世界中のシニア層へ情報を発信することを考えている。
高齢化社会は日本だけではなく、中国や東南アジアなどにも広がっている。「世界のリーディングカンパニー」になるということを目標に、まずは東南アジアへの展開を考えている。
─それは現地法人を設立するということか。どのくらいのスパンで計画を実行するのか?
まだ日本のシニア層全員に「ハルメク」を知ってもらえているわけではないので、まずは日本での認知拡大を追求する。その後、海外展開を行うイメージだ。願望としては、3年くらいでベースを築いていきたいなと思っている。
現地法人の話も出たが、その必要も出てくると思う。実際に想像ではなく、顧客にインタビューやアンケートを通じて、生の困りごとをヒアリングするという根幹は変わらない。あとは、その国にローカライズして提供できればベストだ。デジタルとアナログを駆使して、海外のシニア層の困りごとなどを解決していきたい。