ファンケルの通販事業は引き続き成長を遂げている。同社の2024年3月期の通販事業全体の売上高は、前期比6%増の約490億円となった。自社通販では、既存顧客の活性化に注力したという。既存顧客一人当たりの平均購入金額を約10%上昇させることにも成功している。同社の上席執行役員・通販営業本部本部長を務める村岡健吾氏に、通販事業の好調の要因や、今後の展望について聞いた。
既存の購入金額が10%増
──2024年3月期の成長の要因について聞きたい。
ECモールなどの「外部通販」では、各プラットフォームの特性に応じて広告を強化した。モールのお客さまや商品の育成に取り組んだ。
自社通販においては、”今いるお客さまとどう向き合うか?”が非常に重要だと考えている。お客さまを「見る・知る」、お客さまと「つながる」を実践した。既存のお客さまのLTVの最大化を図った。
その結果、自社ECにおけるレスポンス広告を半減させたが、既存のお客さま一人当たりの平均購入金額は約10%上昇した。
自社通販事業の変革に取り組んだ1年だった。これまで”点”で取り組んでいたが、”線・面”を意識した。
特定の商品ごとに戦略を磨いていた「商品軸」という”点”から、「お客さま軸」での、業務の”面”へのシフトを意識した。
業務の”面”というのは例えば、情報誌やデジタルコンテンツを展開するウェブサイト「FANCL CLIP(ファンケルクリップ)」、アプリ、ターゲット別プログラム、各施策・サービスなどが挙げられる。
「お客さま軸」で横断的に捉え、各業務の連動性を高めることで、”線・面”の取り組みを強化していった。
──通販事業において特に注力している取り組みは。
通販事業においては主に、(1)購買 (2)つながり (3)体験─といったKPIを新たに設け、力を入れている。
「購買」では、定期通販利用率・内外(健康食品と化粧品)併売率の引き上げ、ロイヤル顧客化の強化、F2以降の育成などに取り組んでいる。
「つながり」という点では、メルマガ・LINE・アプリの登録率の引き上げを図ったり、情報誌を送付したりしている。LINE・アプリの登録を促進した結果、24年3月期は、購入者におけるアプリの登録者数が前期比10%増、LINEの登録者数が同11%増となった。
「体験」においては、工場見学や口コミ投稿率の向上、ライブショッピングの展開、オンラインイベントの開催などに取り組んでいる。
こうした通販における要素に加え、当社全体での取り組みである、チャネルの垣根を超えた展開や、新たな顧客獲得モデルの模索、コスト構造の変革などと組み合わせた事業を行っている。
アプリ会員は100万人以上
──アプリのリニューアルを行ったようだが。
当社のアプリは、14年にリリースし、今年で10年目を迎えた。100万人以上が登録しており、1日当たり5万人以上のお客さまが利用していた。
2024年4月に、同アプリをリニューアルした「ファンケルメンバーズアプリ」をリリースした。
それまでのアプリは、通販においては購入場所、店舗では会員証といった位置付けだった。
今回のリニューアルによって、ファンケルとお客さまをつなげ、ファンケルらしい体験の提供を目指していく。
日常使いしたくなるアプリとなるよう、機能も拡充した。お客さま一人一人に合わせた情報を届けられるコミュニケーション設計を意識してリニューアルを行った。
アプリ会員登録時に実施するアンケートの回答や、購買履歴・閲覧情報に応じて、商品や情報など、さまざまなレコメンデーションを行う。
アプリ内のキャンペーンバナーやメッセージなどを通して、化粧品・健康食品のセグメントを横断した訴求も戦略的に展開。併売率を高める提案を実施していく。
──2025年3月期について聞きたい。
今期は特に、(1)さらなる「つながり」の強化 (2)子育て世代・シニア世代向けのプログラム (3)顧客体験価値の拡大(4)サービスの最適化による、メンバーズサービスの見直しの検討─といったことに力を入れて取り組む。
コロナ禍以降、市場環境が大きく変化している。これまでの通販・EC市場では、「商品力を磨く」「デジタルマーケティングの効率化を追求する」が勝ちパターンの一つだったが、それだけでは通用しなくなってきたとも考えている。そうした従来の勝ち筋から脱却し、変革を行うことが重要である。
幸い、当社は多面的なリソースを有している。”面”や”線”を意識しながら、商品展開やサービス、コンテンツなどの豊富なリソースを最大限活用することにより、お客さまへの提供価値をさらに強化していきたい。