セレクトショップを運営するシップス(本社東京都、原裕章社長)の2024年前半は、ECと実店舗共通の会員制度のリニューアルや、若年層向けの新レーベルの立ち上げなどに取り組んできた。ECの成長はコロナ特需の反動で鈍化傾向にあるというが、集客のてこ入れを行い、巻き返していく方針だ。2024年前半の振り返りや今後の見通しについて、販売促進部部長・萩原千春氏に聞いた。
会員制度刷新で効果
──今年4月に会員制度「SHIPS Member’s Club(シップスメンバーズクラブ)」をリニューアルしたが、その後の手応えは。
リニューアルでは、買い物以外のサービス利用でのポイントの獲得、新たな会員ステージの導入などを実施した。試着・取り寄せなどのサービス利用が伸びていて、特に来店予約数はリニューアル直後の4月と比較して6月は約6倍となった。来店した人はスタッフの接客を通し、満足して購入する流れができている。
リニューアルでは、会員ステージごとの特典も戦略的に設定した。特典を利用した顧客のLTV(顧客生涯価値)が高い傾向となっている。
ライト層をどれだけファン化できるかがポイントとなると思う。ロイヤリティーの高い顧客との関係性はもちろん、これから高めていく顧客とのコミュニケーションを引き続き強化していく。
──同じく4月には、イーコマース事業協会の「全国ネットショップグランプリ」にて大賞を獲得した。どのような取り組みが奏功したか。
自社ECの特徴である (1)商品だけでなくスタッフや地域などのワードも含む検索機能 (2)「お気に入り」登録の情報を元に再入荷やイベントなどの情報をパーソナライズして提供 (3)OMO施策─などが評価につながった。
OMO施策では、ECと実店舗をまたぐ複数購入にも対応する店頭決済を実施している。この利点として、ショッピングモールなどのポイントにEC購入の分も反映できたり、複数買いの特典を使えたりする。
ECサイトをプラットフォームとして、顧客にとっての「発見の場」やシップスとの接点として活用できていると思う。
ターゲット明確化し訴求
──7月に発表した新レーベル「City Ambient Products(シティ アンビエント プロダクツ、CAP)」について聞きたい。
カジュアルなデザインや低価格の商品をそろえている。20~30代の若年層をメインターゲットとし、新規顧客の獲得と、既存店の売り上げ拡大を目指す。今の時代に合わせて、テイストやターゲットを明確化して訴求する環境を整えた。
アパレル業界はどのテイストやターゲットであっても競合が多い。「CAP」はシップスのクオリティーを維持しながら、若年層に寄り添った価格やデザインであることが特徴だ。
プロモーションは、SNSをはじめとしたオンラインと、既存の店舗を活用したオフラインで広く展開する。将来的には独立店舗を作りたい。
──ECのバックヤードで注力している点は。
7月に自社ECの物流の一部を内製化した。これまではピッキングしたものを委託先に送り、梱包などの過程を経て配送していたが、自社で梱包まで実施し、ラストワンマイルに付随する配送のみを外注するようにした。
これにより、1日当たりの処理件数を増やすことができるため、梱包や配送に関連する顧客サービスを強化していきたい。
──2024年後半に向けての意気込みは。
ECについては正直なところ、コロナ禍の特需の反動により、成長は鈍化傾向にある。自社ECサイトでは、集客のてこ入れをしたい。
まずはウェブプロモーションの精度を高め、ターゲットやチャネルに合わせた情報を提供する。コンテンツマーケティングや内部SEO対策にも注力するつもりだ。
全体では、シップスを好きになってもらうためのコミュニケーションを強化していく方針だ。例えば、2024年9月に、「LINE IDコネクト」を実装し、MA(マーケティングオートメーション)を連携させたシナリオの提供を予定している。メールやアプリなどの各ツールを駆使し、顧客一人一人との関係性を深めていきたい。