12月12日施行の改正大麻取締法について、THCの残留上限値がどのように設定されるかに注目が集まっていた。業界内には、上限値が設定されることにより、市場の急拡大のきっかけになるのでは、と期待する人も少なからずいた。
今回の改正大麻取締法では、上限値が、油脂(常温で液体であるものに限る)及び粉末は、10ppm(0.001%)、水溶液は0.1ppm(0.00001%)と定められた。
これは国際的に見ても、極めて厳しい基準値だ。THCの上限値については、米国が0.3%、英国やフランスが0.2%、オーストラリアは1.0%となっている。多くの国が0.2%~1.0%を上限値としており、日本の上限値は、群を抜いた低さといえそうだ。
ECなどでCBD製品を販売するA社は、「数値を見たときは、何かの間違いだと思った。この数値では、ほとんどの輸入原料や輸入商品がアウト。周りの事業者からも、撤退するという声が続出している」と話していた。
CBDの原料販売やOEMを展開する吉兆堂(本社兵庫県)のアレックス・ミュラー社長は、「CBD市場が大きく変わる。これまで管理ができていなかった事業者は撤退するだろう。そういった事業者は、小さい事業者を含めれば、7割近いのではないだろうか」と話す。
▲油脂及び粉末のTHC上限値は10ppmに
「改正後は、輸入品を販売することはかなり難しくなる。そこで『国内OEMに切り替えたい』と考える事業者が多いようだ」(同)としている。
検査への懸念も
「低すぎる上限値」の設定を受け、今後の検査方法について懸念を感じている事業者も見られた。
CannaTech(キャナテック、本社神奈川県)の須藤晃通CEOは、「数値が低すぎるため、検査において課題が出てくる可能性がある」としている。須藤氏は、「検査機器の感度の影響なのか、同原料、同製品を分析した際の分析値が異なる事象は多々発生している。0.00001%という数値では、分析のブレによって、わずかな誤差が発生しただけでアウトになってしまう。数値に幅を設けるなど不確実性への対策を講じなければ、悪意のない違反が起こってしまう」と危惧していた。
検査については、C&H(本社東京都)の岩間洸太社長も、「非常に低い数値であるため、CBDやヘンプ製品のTHCの数値が、輸入前の検査と日本での輸入後の検査でばらつくことが想定される」としていた。
「1~10ppmのレベルでは、検査機関の違いや検査時期によって、数値のばらつきが生じる可能性がある」(同)とも話していた。
岩間氏は、「CBDアイソレートの場合、基準を満たすことはそこまで難しくないが、健康被害が確認されていないレベルで、CBDから微量のTHCへの変換が起こる可能性はゼロではない。そういった点を考慮する必要もあるのでは」ともしていた。
岩間氏は検査方法について、明確なガイドラインが存在しない点についても懸念していた。
「上限値が極めて低いにも関わらず、どのような検査方法で、どのような結果があれば問題がないのかといった基準が不明確となっている。日本では、規定のppm基準を満たしていることを保証できる検査機関が未だ公表されていない」(岩間氏)と話していた。
既存事業者の取り締まりが目的か
麻産業創造開発機構(HIDO、事務局三重県)で9月まで事務局長を務めていた亀石克美氏は今回の上限値設定に関して、「CBDの先行販売企業の取り締まりが目的では」とみているようだ。
これまでCBD製品を販売していた事業者の中には、「少しくらいTHCが入っていたほうが売れる」と考える、悪質な事業者も少なくなかったという。そういった信頼できない企業を一斉に取り締まるため、今回の数値にしたと考えているようだ。
「悪質な事業者を撤退させることはできるかもしれないが、そうではない事業者にも影響が出ているのは事実。在庫の入れ替えや、新規の商品開発が難しい中小の事業者が、今後の販売を諦め、改正法の施行前に、ECで在庫処分セールを始めるケースも少なからずあった」(同)と話す。
一方、大手企業の参入の動きはむしろ活発化しているという。「まだ研究や試作の段階だが、相談を受ける機会は増えている。特に課題となっているのは、CBDの仕入れ先だ。米国を中心としたこれまでの輸入先では、基準値を上回ってしまう危険性がある。そこで、信頼できる仕入れ先を模索する動きが活発になっている」(同)としている。
キャナテックの須藤氏も、「明確な数値が設定されたことにより、大手企業の参入が増え、市場拡大の基調にはなっていくだろう」と予測していた。一方で、「業界として参入企業のリスクを排除できる仕組みをいかに構築できるかが重要になってくると考えている」としていた。
CBDのコミュニティーを運営するAsabis(アサビス、本社東京都)の中澤亮太社長は上限値の設定について、「参入を考えている大手企業からは、歓迎の声が上がっている。一方、既存事業者の多くは、商品の入れ替えを迫られ、事業縮小や撤退を余儀なくされている。既に規制値を達成している企業からすると、ライバルが減るというメリットはあるが、販売企業数が大幅に減るのは間違いないだろう」と話す。
「市場は拡大」が多数派か
中澤氏は今後のCBD市場について、「寡占市場になる可能性がある」とみているようだ。
「現在のCBD市場で横並びとなっている中小企業の多くは、改正に対応できず淘汰されていくだろう。そこに資本力のある大手が参入してくるとみている」(同)と話す。
既存事業者が撤退することにより、一時的な市場縮小はあるものの、大手参入により、結果として市場全体は拡大していくとみているようだ。
前述の亀石氏も、「市場は拡大する」とみているようだ。「これまでのCBDは、基準があいまいだったこともあり、『悪』のように報道されるケースが少なくなかった。実際に、悪質な事業者もいたため、そのイメージの悪さから、参入に足踏みしていた企業もいただろう。今回の規制は、厳しいとの声が多いが、最終的には良いマーケットになる可能性が高い。そうなれば、自然と市場は拡大していくのではないだろうか」と話していた。
吉兆堂のミュラー氏は、「展示会などに出展すると、CBD関連の出展企業が明らかに減ってきている。一方で、『新たに参入を考えている』などと、問い合わせをいただくケースは増えている。今後は、販売事業者が大きく入れ替わっていくだろう」と話していた。
CBDの販売事業者の中心はこれまで、中小企業やスタートアップ企業だった。予想をはるかに下回る基準値の設定により、商品や仕入れ先の変更に対応できず、撤退する企業が相次ぐことは避けられないかもしれない。販売事業者の数は大幅に減少していきそうだ。
一方で、CBDのイメージがクリーンになれば、大手企業の参入は増える可能性が高い。これまでのCBD市場では、ECが主な販路だったが、多様な販路を持つ大手企業が参入することにより、実店舗への卸なども増えていく可能性は大いにある。
2024年12月12日を節目に、CBD市場の姿は大きく変わっていきそうだ。