健康食品通販国内最大手であるサントリーウエルネス(本社東京都、沖中直人社長)のコンタクトセンターの顧問を務める廣瀬奈加子さんは、同社が通販にシフトした2001年から、コールセンターを支えてきたレジェンド的存在だ。開設当初はわずか4人しかいない、同社のコンタクトセンターで電話接客を行っていた。現在は数千人規模となっているオペレーターの教育を担当しているそうだ。同社では、廣瀬さんが書いた、季節の文章を、毎月同社の商品に同梱している。「廣瀬さんに会いたい」という問い合わせが年間300件以上寄せられるという。廣瀬さんは「電話の向こうのお客さまに思いを馳せ、お客さまを輝かせる応対をするよう心掛けている」と話す。
研究から接客
──サントリーウエルネスがコールセンターを開設した当初のことを教えて下さい。当社が通販をスタートしたのは、2001年でした。コールセンターも同時に開設しました。
もともと私は薬剤師で、サントリーウエルネスには、薬の研究開発を行う研究員として入社しました。
2000年ごろ、製薬事業を事業譲渡するのに合わせて、会社に残るかどうかの判断を迫られました。「会社に残る」と決めて配属された部署は、現在の健康食品の部署で、コールセンターの立ち上げを任されたのでした。
当社が最初に始めたのは、新聞の折り込み広告から電話注文を受け付ける通販で、かかってきた電話をひたすら受ける日々でした。当時、商品は「セサミン」を中心に20~30商品ラインアップしていました。
コールセンターは規模が大きくなると、専門のコールセンター会社へ委託するケースが多いですが、サントリーウエルネスのコールセンターは、開設当初から、インハウスに近い形態で運用していました。現在は、委託先企業に加えて、サントリーグループのコールセンターの専門子会社が、コールセンターを運営しています。
真の声を聞く
──サントリーウエルネスのオペレーターとして、全員が心掛けていることは何ですか。
われわれサントリーウエルネスでは、「一人一人の『生きる』を輝かせる」というミッションを掲げています。一人一人を生き生きとさせるために伴走し、人生に寄り添いながら、心も体も健康になっていただくという考えです。
コールセンターのオペレーターも、電話応対でお客さまに笑顔になってもらうことを心掛けています。これからも、「また電話したい」と思ってもらえるような応対を心掛けています。
そう思ってもらうためには、電話の向こうのお客さまに思いを馳せることが大切です。お客さまの真の声に耳を傾け、電話をかけてきた本当の理由を探ります。
例えば、「オルニチンのサプリが欲しい」と電話をかけてきたお客さまがいるとします。サントリーウエルネスはオルニチンのサプリは扱っていません。ただ、お客さまには、何か解決したい悩みがあるはずです。
そんな時に、「どうされたんですか?」と尋ねます。そうすると、「実は疲れがとれなくて」と返してくれるかもしれません。そこで、「それはお困りですよね。オルニチンはありませんが、セサミンが役に立つかもしれません」と提案します。
こういったお客さまに寄り添う考え方を、オペレーターには、「ビジョンミッション研修」という研修で、学んでもらっています。
ファンを作る
──廣瀬さんは毎月、サプリメントや化粧品に、あいさつ状を書いて同梱していると聞きました。
300字程度の季節のあいさつ文を書いたものを、定期購入の商品に添えて送っています。あいさつ文には、自分の名前も入れています。ありがたいことに、「商品よりも廣瀬さんの文章が楽しみです」というお声を寄せてくれる人もいます。
あいさつ文を書き始めたのは、11年からでした。今年で13年になります。これまで200通以上は書いたことになります。
─人手不足もあり、AIが電話接客する時代になりつつあります。これからのコールセンターについて、どう思いますか。
AIによる対応も、あっていいと思います。「この情報さえ分かればいい」というお客さまもいます。
ただ、私としては、「コールセンターはファンを作り出す『プロフィットセンター』でありたい」と思っています。「あのコールセンターがあるからこの商品を続けたい」と思ってもらえる仕事でありたいのです。
お客さまの声から、表情や思いを感じるのは、人間にしかできないのです。