水消費量は業界全体で数%増に
2024年の夏は、例年に比べて暑い日が続いた。各社に取材したところ2024年6~10月は、前年同月と比較して、宅配水の月間消費量が増加したという。
消費量の伸び方は各社によってばらつきがある。東京など都市部に顧客を多く持つ企業では、水の消費量が10%近く高まったケースもあったとしている。一方、東北や北陸に顧客を多く持つ企業では、消費量の増加は限定的だったようだ。
2024年8月には、テレビや新聞、ネットニュースなどで、「南海トラフ地震」の発生の恐れがある旨の報道が多数された。それによって、備蓄のニーズが高まったとみられる。
猛暑と「南海トラフ地震」の報道による影響によって、業界全体で、水の消費量や、ボトルの注文数、新規顧客数が増加した。業界全体で、2024年6~10月は平均3~4%売り上げが伸びたとみられる。
▲気象庁が南海トラフ地震の注意喚起を実施
ただ、備蓄に備えて8月度に水ボトルを多めに注文した顧客では、9月にボトルの注文を控えるといった動きもあったようだ。新規顧客数についても、中堅の水宅配企業のほとんどが横ばいだった。プレミアムウォーターや富士山の銘水など、新規獲得への提案を積極的に行っている企業ほど、「南海トラフ地震」関連で生まれた特需を捉えることができたとみられている。
浄水のニーズ続く
浄水型のウォーターサーバーのニーズが高まっている。浄水型サーバーは、天然水の水宅配サービスに比べて、配送料がかからないため、月額料金が比較的安価に抑えられるというメリットがある。
浄水型サーバーを月間3000台出荷している中堅の宅配水メーカーがあるという情報もある。
一方で、「当社の商品はあくまで宅配水である」と訴える企業も少なくない。背景には、「浄水型サーバーは、商品である『水』の安全性を顧客に委ねざるを得ず、リスクがある」との考えがあるようだ。
水道水をろ過できる専用浄水カートリッジが付いたウォーターサーバーをレンタルできるというのが、浄水型サーバーの一般的なビジネスモデルだ。カートリッジは、活性炭などで不純物をろ過できる機能を搭載していることが多い。顧客が自分で水道から水をくんで補充する仕組みであるため、最終的な飲料水の安全性をメーカーが担保しにくいという側面があるのだという。
「浄水型サーバーはいわば『家電製品』。当社はおいしい水を提供する『食品メーカー』だ」(取締役)と話す企業もある。
浄水型サーバーは現在、国内で1100万台超が流通していると見られている。富士山の銘水やコスモライフでは、浄水型サーバーの顧客件数が引き続き増加しているそうだ。
今後も浄水型サーバーのニーズは継続しそうだ。
物流費高騰で打撃
2024年の宅配水市場のトピックとして大きかったのは、水ボトルの配送にかかる物流費の高騰だ。
本紙が、水宅配企業を含む対面販売事業者33社に対して、物流費の増加についてヒアリングを行ったところ、2024年3月末時点と比較して、物流費の上り幅が「5%以上」だったとの回答が58.6%の事業者から寄せられた。「10%以上」という回答も17.2%あった。
物流費の高騰が直撃しているのが、ワンウェイ方式で水宅配事業を展開している企業だ。ワンウェイ方式では、水ボトルの顧客宅への配送を、佐川急便などの大手配送会社に委託しているケースが多い。水ボトルはサイズが大きく、重量も重い。健康食品や化粧品などの他の商品に比べて、上り幅も大きいとみられる。
最大手のプレミアムウォーターでは、地域の配送会社に個別に委託して、自社配送比率を高めている。異業種企業と協業して、水ボトルの配送ルートを異業種の配送ルートに組み込むなどの取り組みも行っている。
リターナブル方式で水宅配事業を展開する企業は、自社で配送員やトラックを抱えているケースが多く、配送会社の値上げの影響は受けていない。ただ、現場の配送員の人件費や、自社便のトラックの燃料費、水ボトルの資材費などは高まりを続けている。物流費以外の値上がりがボディーブローのように効いてきそうだ。
PFAS報道はどこまで
2023年から、PFASについて、多数のメディアが報道している。
PFASのうち、代表的な「PFOS(ピーフォス、ペルフルオロオクタンスルホン酸)」「PFOA(ピーフォア、ペルフルオロオクタン酸)」が、北海道や兵庫県、千葉県、静岡県など、日本各地の水道水から、政府が定める暫定目標値を上回る値で検出されているという。東京都でも、複数地点の地下水で、暫定目標値を超える値が検出された。
▲水質基準の引き上げ検討を発表した石破首相(出典:首相官邸のHP)
石破茂首相は2024年12月、2025年春ごろをめどに、水質基準の厳格化を含め対応の方向性を決める考えを示した。環境省の関係者によると、「PFOS・PFOA」の基準値を、「六価クロム」などの有害物質と同じ基準へ引き上げるとみられている。