「事実相違」で誇大広告
消費者庁は、2023年9月に、特商法を所管する取引対策課内に「デジタル班」を設置するなどして、通販の違法表示に対する、特商法に基づく法執行を強化している。2024年3~12月の消費者庁による通販企業への業務停止命令は、前年同期間比6件増の7件となった。
ほとんどが、化粧品や健康食品などの定期通販を行っている事業者に対する処分だ。処分の多くでは、最終確認画面における定期購入の総額などの「表示義務違反」や、製品の使用前後の写真をウェブ広告に表示する「誇大広告」が指摘されている。
VERIFYに対しては、「シワが消える」などの根拠のない優良誤認表示をしていたとして、誇大広告を認定した。「一回限り 解約不要」などと、あたかも定期購入契約ではないかのように、事実と違う表示をしていたことも、誇大広告と認定した。
今後も、デジタル班を中心とした、通販に対する執行強化は止まりそうにない。
銀行は新規も既存もNG
状況が大きく変わっているにもかかわらず、旧態依然のコンプライアンス意識でいる通販企業が目立つ。特商法の業務停止命令・業務禁止命令の影響は甚大だ。不適正表示を「言われてから直す」では、遅い。
本紙では、これまで特商法の業務停止命令処分を受けたことがある企業数社に、「業務停止命令を受けたら何が起こるか」について取材した。影響の度合いは、処分の内容や、個々の企業の置かれている状況にもよるようだが、総じて(1)銀行(2)不動産(3)クレジットカード(4)物流(5)広告─の五つの面で、業務停止命令以前と同じ取引ができなくなったことが分かった。
例えば、業務停止命令を受けたことがあるA社の元代表は、銀行との取引について、「口座を持っていたメインバンクから、『○月△日から口座が使えなくなります』という通知が来て、使用することができなくなった」と言う。
A社では処分を受ける以前、売り上げや支払いのすべてを一つの口座で管理していたという。その口座が使えなくなったことにより、継続する別の業務も、海外に口座を作って運営せざるをえなくなったとしている。
業務停止命令を受けたことがあるB社では、「新規や既存の取引銀行全ての融資が受けられなくなった。業務停止命令を受けて5年以上が経過するが、現在も融資を受けることができない」(広報担当)としている。
特商法違反を認定された企業に対する融資について、メガバンクや地方銀行に取材を試みたが、いずれも、「融資に関する基準は明らかにしていない」として、取材には応じなかった。
ある地方銀行の関係者は、「特商法違反企業に対する融資の停止の基準があるわけではない。ただ、新規の融資の審査のハードルはかなり高まる。既存の取引については、違反の程度によって、取引のすべてを引き上げるのか、一部を見直すのか、対応が異なる」としている。
特商法に詳しい、さくら共同法律事務所の千原曜弁護士によると、「業務停止命令を受けると、新規の取引は当然ダメになる。既存の貸し付けについても、一括返済を求められることがある」としている。
店舗契約が白紙に
不動産については、賃貸借契約の契約書の解除条件として、「特商法の違反を行った場合、退去を求められる可能性がある」旨が記載されているケースも少なくない。ただ、実際には退去を求められないケースもあるようだ。
A社の元代表は、「オフィスの賃貸借契約の解除条件に、見直す可能性の記載はあったが、特に言われることはなかった」としている。
一方で、B社では、「全てではないが、新規の店舗を出店する際に、業務停止命令を受けたことが不動産会社に知られ、契約に至らなかったことが何件もあった」(同)としている。
業務停止命令を受けたC社の社長は、「シェアオフィスを探していた際、業務停止命令が理由で審査が通らなかった」と話している。