定期顧客の支払いに影響
クレジットカードの契約については、カード会社において、明確な規定が設けられている。
三井住友カードによると、加盟店契約の解除の条件として、通販の場合、「加盟店が監督官庁から営業の取り消しまたは停止処分を受けた場合」という規定を盛り込んでいる。
「禁止行為」としても、「監督官庁から改善指導・行政処分等を受けるまたは受ける虞(おそれ)のある行為をすること」を規定している。
地方自治体から特商法違反で業務停止命令を受け、新規の取引の受注ができなくなったことがあるD社の社長は、「クレジットカードの加盟店契約が解除され、健康食品の定期購入顧客の支払いに、クレジットカードが使えなくなった。後払いなど別の決済にしてもらうようにして対応した」と話している。「結果的に、定期解約する顧客が増え、売り上げが大きく下がった」と話している。
業務停止命令の内容によっては、継続できる事業もある。ただ、クレジットカード決済ができなくなることで、継続できる事業の幅が狭まってしまうようだ。三井住友カードでは、「具体的な加盟店の審査基準は明かせないが、一度契約解除された加盟店の再加盟はハードルが高い。規約上、特商法違反や消費者契約法違反があった加盟店は、事由発生から5年間は加盟店申し込みを受けつけていない」(広報担当)としている。
掛け払いができない
A社の元代表によると、業務停止命令を受けたことにより、これまで取引してきた物流会社との取引内容についても見直すことになったという。その結果、これまで行ってきた、配送料の掛け払いを、日ごとの現金払いに切り替えざるを得なくなったとしている。
「取引先の大手配送会社に対しては業務停止命令以前、その月に掛かった顧客への配送料を、月末締め翌月末払いでまとめて支払うことができた。当日の現金払いになったことにより、集荷のタイミングまでに現金を用意する必要があり、決済処理に社内の手間が大きくかかるようになった」(同)としている。
ある決済代行会社によると、「業務停止命令を受けると、さまざまな取引先が、取引関係を見直す契機になる。物流だけでなく、商品の仕入れや受注管理システムなど、さまざまな取引が見直されるのではないか」(担当者)としている。
代表者の私生活にも
特商法では2016年の改正から、停止命令を受けた会社の役員や業務の統括者などが、停止範囲内の業務を、新たに法人を設立するなどして継続することを禁止する「業務禁止命令」の規定が設けられた。
業務禁止命令を受けたC社の社長によると、子どもが私立の小学校を受験した際、「おそらく自分への業務禁止命令が理由で選考を落とされた」と話している。
本紙が私立の小学校数校に取材をしたところ、いずれも異口同音に「入試選抜方法に関する回答は控える」などと答えた。
特商法に詳しいある弁護士は、「有名私立校などは、業務禁止命令を受けた人物の子供を合格させたことが、同級生の父兄に発覚した場合のクレームを恐れているのではないか。在学中に学費が払えなくなるといった事態を想定している可能性もある」と話している。
(公社)日本通信販売協会(JADMA)の万場徹専務理事は、「特商法違反になるということは、それだけ犯罪に近い社会的影響があるということを念頭に置くべきだ」としている。
特商法の業務停止命令が、命令の範囲以外にもさまざまな影響があることについて、消費者庁は、「あくまで業務停止命令を行うまでが当庁の所管業務であり、それ以外のことについてコメントは控える」(取引対策課)としている。
A社の代表は、「業務停止命令を受けたことで、社内の雰囲気が変わり、社員やパートナー企業が離れていってしまった。今まで社員一丸で信念を共有して作ってきた価値観が壊れ、残った社員のモチベーションが下がってしまったことが、一番残念だった」と話す。
業務停止命令が行われる場合、事前の立ち入り検査すらなく、突然当局から告げられるケースも、複数確認されている。通販企業も訪販企業も、予断を許さず、コンプライアンス体制を徹底して事業を行うべきだ。
一方で、ライバル企業などが、うその消費者トラブルを消費生活センターに相談することもある。当局に対しても、業務停止命令を行う場合は、調査を徹底して行うことを求めたい。