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2025.05.27

特集

法律

【シリーズ 特商法改正と訪販・連鎖 <1>】主婦連合会 河村真紀子会長 <上>、「良い事業者がいても運が良くなければ出会えない」

河村真紀子氏


消費者団体や弁護士会などにおいて、特定商取引法の改正を求める動きが活発化している。消費者団体が中心となって構成された、特商法の抜本的改正を求める全国連絡会では、訪問販売への不招請勧誘規制導入や、連鎖販売取引への参入規制の導入などを求める意見書を出しており、特商法改正に向けた議論の場を早急に設けるよう、消費者庁に要望している。同会の代表幹事の一人でもある、主婦連合会(略称主婦連、事務局東京都)の河村真紀子会長に、特商法改正を通して、訪販・連鎖販売にどのような規制をかけることを求めているのかなどについて聞いた。



──訪販業界についてどのように見ているか。

訪販に対しては、20年ほど前から不招請勧誘規制を導入すべきと言い続けてきた。一定の被害が出続けている業態だと認識している。訪問販売法(現特商法)ができた当時と今とでは、状況も変わっており、高齢化が進んでいる。高齢で独居の人もいれば、認知症で判断力が衰えた高齢者もいる。

そんな中、訪販については、どんなアンケートでも、9割以上の人が「来てほしくない」と答える。われわれも訪販お断りステッカーを普及する運動などをやってみたりもしたが、法律上は「訪問勧誘を断ったことにはならない」と解釈されてしまう。そこを、条例で位置付けてもらうといった取り組みも行ってきた。

──訪販についてどのような規制を導入すべきだと考えているのか。

電話勧誘販売のドゥー・ノット・コール(※参照)の規制や、訪販のドゥー・ノット・ノック(※参照)の規制の導入は、必要だと考えている。今のルールだと、消費者が一度断らないと、再勧誘規制の対象にならない。それでは被害が防げない。事業者は、現状のようにピンポンを押して訪問する形ではなく、ダイレクトメールなどで事前に訪問勧誘の了解を取るなりするべきだ。そうでないと、脆弱(ぜいじゃく)な消費者を守れないだろう。

訪販に対する規制強化が必要だと考える理由の一つとしては、トクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)の存在もある。犯罪者が訪問してきて、家にいる人を縛り上げたり殺したりして強盗をするといった事件が実際に起こっている。リフォーム業者が訪問してきて家のことを聞いたりして、それがトクリュウの情報源になっているという懸念もある。お人よしの高齢者は、訪問勧誘する人を玄関先に入れたりして、家族構成なども話してしまう。判断力がどの程度あるのかも勧誘の中で分かってしまう。それがトクリュウのような犯罪の入り口になるともいわれている。

警察庁の報告書では令和5年(23年)の訪販型の被害額が前年比で何十倍以上にもなっている。この年の金額は突出しているので、詳細は不明だが、リフォーム訪販に、反社的なところが流入してきているのではないか。ルールを変えないともはや対応できない。

健全な訪販事業者が存在しているのは分かっている。だが、「訪問してはいけないところに勧誘に行けばその時点で違反を問える」という外形的な状況を作らないと、悪質な事業者の取り締まりができない。

全体の相談件数が高止まりする中、人口減少が進んでおり、高齢者被害の割合が高まっている。ドゥー・ノット・ノック的な規制をぜひとも導入してもらいたいと考えている。

──すべての訪販に例外なく規制をかけるべきという考えか。

より悪質・高額な消費者被害への対応を優先させるため、例外を設けることはありうると考えている。24年1月に、われわれ消費者団体が中心となって設立した、特商法の抜本的改正を求める全国連絡会(以下全国連絡会)がまとめた「特商法改正の検討の場を速やかに設けることを求める意見書」でも、訪販・電話勧誘販売について、事前拒否者に対する訪問勧誘を禁止する制度の導入を求めているが、その後段として「なお、自然被害後の窮状に乗じた詐欺的リフォーム工事や、高齢者を狙った次々販売等の被害が深刻であることを鑑み、食品の宅配・新聞等の低額取引分野については自主規制等での対応とするなどして、より悪質・高額な消費者被害への対応を優先させること」と続けている。適用除外の方法については、業種で切る方法や、金額で切る方法など、いろいろなアイデアがあるかとは思う。

──ドゥー・ノット・ノックのような、不招請勧誘規制は、事業者の営業の自由を侵害するという議論もある。

門から一歩入った、自分の家の中で平穏・安心に暮らせるということは消費者の当然の権利だ。そこに踏み込んでいく自由が事業者にあるのだろうか。自分からは断れない消費者もいるし、病気気味の人もいる。事業者も勧誘の方法を考え直した方が良い。チラシやハガキでアプローチし、消費者からコンタクトを取ってもらえるようにすべきだ。

電話勧誘も同様だ。何十年か前から、家の電話は、電話勧誘事業者に乗っ取られたような状態になっている。勧誘が怖くて電話に出られないという人もいる。どうせ勧誘の電話しかかかってこないからと、家の電話をなくす消費者もいる。登録した人のところに、電話をかけたり訪問したりすると違反になり、相当な罰金の対象となる、といった制度がやはり必要だ。

そういった制度があれば、遠く離れて住む親族・友人でも、「登録だけしておいた方がいいよ」とお薦めできる。周りの人が代わりに登録してあげることもできる。消費者に、選択の余地・自由もある。

法律を守って適正にやっている、だまそうという意図を持っていない事業者の営業の自由を守るべきだ、と言われることもある。しかし、私たちの意見は変わらない。良い事業者がいても、消費者は運が良くなければ出会えない。訪問勧誘自体が許されていれば、そこにつけ込む悪質な事業者がどうしても出てくる。


 ※ドゥー・ノット・コール、ドゥー・ノット・ノックとは…勧誘を受けたくない人が、事前に登録を行える制度。登録した消費者に勧誘を行うと、その時点で違反となり罰則の対象となる。海外では導入事例がある。


<河村真紀子会長 プロフィール>
 東京生まれ。早稲田大学第二文学部美術専修卒業。結婚後、主婦連合会の会員に。主婦連合会事務局次長、事務局長を経て、2021年6月に会長就任。新しい事故調査機関実現ネット共同代表幹事、消費者安全調査委員会委員などを歴任。現在は、主婦連会長に加えて、全国消費者団体連絡会理事や、特商法の抜本的改正を求める全国連絡会代表幹事、全国消費者行政ウォッチねっと共同代表などを務める。

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