消費者団体や日本弁護士連合会は、特定商取引法改正の議論の場を、早期に設けることを求めている。連鎖販売取引について、登録制など何らかの参入規制の導入を求めている点でも共通している。参入規制は、悪質な事業者を排除できるという意味で、健全な事業者にとって追い風になる可能性もある。一方で、登録制の要件が過度に厳格化されると、健全な事業者すら事業を営めなくなる懸念がある。こうした点について、主婦連合会(略称主婦連、事務局東京都)の河村真紀子会長に話を聞いた。
──特商法改正の議論に関連して、連鎖販売取引についても聞きたい。連鎖販売について主婦連では、登録制など、なんらかの参入規制の導入を主張していると理解している。一方で、一時期は年間2万4000件ほどあった「マルチ取引」の相談件数は、現在、5000件程度まで減っている。この状況で規制強化が必要か。この点についてどう考えるか。相談件数が減っているというが、減っているから問題がないとは言えない。真っ白な事業者もいれば、真っ黒な事業者もいる。若者の深刻な被害も生じており、消費者庁も啓発動画を作ったりしている。
マルチについては、登録制にして、悪質な事業者は商売ができないようにすることを提案している。個人的にはもっと厳しい規制を導入しても良いと思わないではないが、現時点でわれわれ消費者団体が求める規制の方向性としては、参入規制の導入ということにしている。
モノなしマルチは特に若者に深刻な被害が報告されており、自殺者の事例も報道されている。われわれは、登録制とした場合、モノなしマルチは認めない方向で議論している。親がマルチにのめり込み、人間関係が壊れてしまう「マルチ二世」の問題も取りざたされている。マルチ類型で被害が生じていることは間違いない。登録制にするのならば、健全な事業者にとっては問題ないはずだ。
──登録制を導入する場合、登録の要件をどう設定するかで、事業者への影響が大きく変わってくる。例えば「資本金〇億円以上」のように、過度に厳しい要件が課されてしまうと、健全な事業者ですら事業運営ができなくなってしまう懸念がある。規制の細かいところは話し合いの中で決めていけば良いと考えている。資本金云々よりも、「価値のあるもの」「生活に必要な物品」を売っているかや、不当な価格が設定されていないかなどが、要件になってくるのではないか。登録制が導入できれば、消費者は、事業者が登録していない時点で、警察に相談できるようになる。悪質な事業者の「やり得」になっている現状を変えなければならない。
──消費者団体や日本弁護士連合会が、特定商取引法の改正を求める意見書を繰り返し出しているが。消費者庁の動きが鈍いからだ。2016年の特商法改正では附則6条で5年後見直しが定められていたが、今に至るまで、検討の場を設ける動きすらない。改正のめどがまったく立っていない状況だ。われわれとしては法改正に向けた検討の場を早急に設けることを求めている。
──特商法については、主に通販の規制を強化する内容で、2021年に一度改正されたのではないか。
それは、5年後見直しによる改正だと、われわれは捉えていない。
そもそも消費者庁で現在開催されている「デジタル社会における消費取引研究会」にも、消費者側の委員が呼ばれていないなど、近年消費者の声が軽視されがちであると感じている。消費者庁には、消費者の声に真摯(しんし)に耳を傾け、特商法の見直しの議論を早急に開始することを求めたい。
【河村真紀子会長 プロフィール】
東京生まれ。早稲田大学第二文学部美術専修卒業。結婚後、主婦連合会の会員に。主婦連合会事務局次長、事務局長を経て、21年6月に会長就任。新しい事故調査機関実現ネット共同代表幹事、消費者安全調査委員会委員などを歴任。現在は、主婦連会長に加えて、全国消費者団体連絡会理事や、特商法の抜本的改正を求める全国連絡会代表幹事、全国消費者行政ウォッチねっと共同代表などを務める。