化粧品サロン販売最大手のポーラでは、サロン・百貨店・ECのチャネル横断で行うメンバーシップ「ポーラ プレミアムパス」によって、顧客のLTVが高まっている。2025年は、主力の「B・A」を刷新。エステとコスメを併売する顧客を増やし、顧客のLTVを高める戦略を強化するとしている。トータルビューティー事業部を率いる、営業部の山本恭子営業部長に、対面販売の、現在の事業戦略と、今後の展望について話を聞いた。
「顕在ニーズ」を引き出す
──ポーラのお客さまとビューティーディレクター(BD)との関係性について、どのように見ているか。
お客さまはポーラブランドを愛してくださっているが、それ以上に「このBDさんがいるからポーラも好きなのよ」という声を何万回と聞いてきた。ブランドもBDも両方好きでいてくださるのが、ポーラの強みだと感じている。
潜在ニーズ引き出す「リアル」の価値
最近、「お客さまがBDやブランドを好きな理由」を、「お客さまの顕在ニーズだけでなく、潜在ニーズを引き出せるからだ」と言語化できた。
シワを直したいと思って美容液を買うのは顕在ニーズだが、人と会ってリアルで話すことを通して、「もっときれいになれることがあるんだ」「こんな悩みもあったのか」といった潜在ニーズが引き出されることがある。この潜在ニーズを引き出すことに価値があるのだと、最近気づいた。ミーティングでもよく話している。
自分では気付いていない課題を、信頼できるBDに提案してもらえるのは大きい。
デジタルやAIによるレコメンドは、すでに検索した情報に基づいていて、情報がどんどん狭まっていく。そんな中で「へえ!」という気付きがあれば、お客さまは購入してくれる。対面販売ならではの強みだと感じている。
小林社長の第三者視点
──オルビスの社長だった小林琢磨氏がポーラの社長に就任した。現場で何か変化を感じることはあるか。
小林社長はポーラに長くいないからこそ、客観的に、ポーラの強みは、「研究開発力」と「現場のBDの存在」の二つだと明確に言い切っている。長くポーラにいると当たり前だと思っていたことを、改めて気づかせてくれた。BDのモチベーションも非常に上がっている。
デジタルやAIがどんなに発達しても、約1万9000人いるBDの存在には絶対に取って代われない。ポーラだけの唯一無二の強みだと、社長は繰り返し言っている。この強みを生かして、お客さまへの価値創造を、戦略・戦術へと落とし込んでいくのが、私たちの事業部の責任だと感じている。
──その戦略・戦術の具体例として、ポーラプレミアムパス(PPP)やOMO(オンラインとオフラインの融合)が挙げられるが、進捗は。
PPPは2023年4月から導入し、去年の段階で会員数が100万人を超えた。2年が経ち、PPP会員は、継続率や購入回数、購入単価が高いことがデータで可視化できるようになってきている。
今年は、そのデータを活用して、お客さまの生活に自然に寄り添い、役立つ情報や購入機会を提供できるフェーズに入ったと認識している。
LTVも伸びている。デジタル化が目的ではなく、あくまでお客さまの顧客体験の向上を目指している。
昨年7月にパワーアップした肌分析も好調で、肌分析を受けたお客さまの購入単価が高く、購入アイテムの幅も広がっている。
エステとコスメの「併売客」
──今期の戦略で、特に注力することは。
2025年は、エステと化粧品の両方を使ってくださる「併売客」を増やしていくことを第一の戦略にしている。エステのみ、コスメのみのお客さまも大切だが、それぞれのお客さまに他方を提案し、エステとコスメの「併売客」を増やすことにより、顧客構造をより良くしていきたいと考えている。
──そのための武器となるものはあるか?
肌分析は必須の体験だ。8月の新エステプロモーションや、9月に発売する新「B・A」のリニューアルを行っていく上で、肌分析が大きな武器となる。エステとコスメの両方がパワーアップする今年は、まさに「大チャンスの年」だ。併売客は継続率が非常に高いため、来年以降も持続可能な顧客構造の強化が見込める。これはBDのサステナブルな店舗運営にもつながる。
ブランド全体の売上増
──新製品についても聞きたい。1月に発売した、リンクルショットの浸透美容液「リンクルショットメディカルセラム デュオ(以下デュオ)」の販売状況はどうか?
「デュオ」はリピートのお客さまが急速に増えており、リンクルショットブランド全体の顧客数も増えた。1月から5月で見ると、ブランド全体の売り上げも前年比で上がっている。商品の感触や効果の素晴らしさを実感してくださるお客が多い。
これまでの新製品は発売初期にピークがあり、その後落ち込む傾向があったが、「セラム デュオ」はリピート率が高く、その落ち込みを食い止められているのが特徴だ。
特に「時間は存在しない」というコンセプトが、販売現場に大きなインパクトを与えている。アンチエイジングですらない、という言葉が響いているようだ。
──最後に、山本さん自身が、2025年のTB事業で最も達成したいことは何か?
短期的な売り上げだけでなく、エステとコスメの併売客を増やし、サステナブルで強い顧客基盤を構築することだ。人口が減る中で、どこの企業もロイヤル顧客作りを重視していると思う。ポーラの強みである「現場力」を生かして、戦略を実行していくことが私の最大のミッションだと感じている。
250人近くいるコンサルタントと共に、このミッションをやり遂げたいと考えている。