テレビを中心としたマルチプラットフォーム事業を展開するQVCジャパン(本社千葉県、伊藤淳史CEO)の2024年12月期の売上高は、前期比0.6%減の1317億1900万円だった。伊藤CEOは「インフレや物価高騰により消費マインドの冷え込みが起き、非常に厳しい一年だった」と打ち明ける。このことを踏まえて、今期は顧客のリテンションマーケティングと、さまざまなイベントで新規顧客との接点を創出していく計画だという。伊藤CEOに前期の振り返りと今期の注力点などについて聞いた。
──前期の売上高は減収だったと思う。理由などについて伺いたい。
先日の参議院選挙でもあったように、近年の物価高騰などによって、お客さまの支出に対する意識が高まり、消費マインドの冷え込みが生じたと捉えている。
その中でも比較的、「健康・ヘルスケア」のカテゴリーは成長を続けた。やはりお客さまにとって、健康に関わる需要は高いことが分かる。
──他社を見ると、ジュピターショップチャンネルやジャパネットホールディングスの売り上げは前期と比較して増収だった。このことについて貴社はどのように捉えているか。
確かに他社と比べると、当社の売り上げが減少傾向にあり、多少出遅れた感が否めないところはある。
ただ、お客さまにとって、購入場所の選択肢が多い方がテレビショッピング全体への興味関心につながると思っている。実際に他社の成長具合を見ると、まだテレビ通販業界も市場として成長する余地は大いにあると考えている。
──テレビ通販業界は消費者のテレビ離れもあり、今後業界として規模が縮小していくのではないかという見方もある。
それは事実だと思う。だが、私が先ほど申し上げたテレビ通販業界が盛り上がるということは、テレビだけでなく、ECや他の媒体を活用して、テレビを起点としたマルチプラットフォーム企業へと進化していくことで、業界は活性化すると思っている。テレビという強力な媒体を持ちながらも、ECやライブコマース、アプリなどさまざまなチャネルで顧客とつながることが必要になってくると考えている。ゆくゆくはテレビショッピングの定義自体が変化していくという風に捉えている。
──マルチプラットフォーム戦略では何に注力しているのか。
テレビにおいては、今年4月から4K右旋放送を開始した。それに合わせて、4K右旋放送のデータ放送も拡充している。4K右旋放送の中でDボタンを押すと、商品のさらなる詳細の説明や、天気、占いなどが見れるようになっている。テレビのあり方も現在から今後にかけて大きく変化していくと推測している。
ECでは、ただ単に商品を並べるのではなく、ライブコマースを実施するという訴求方法もある。今年、ブラキャミソールなどを紹介するライブコマースを実施したところ、ライブとアーカイブを合わせて計6日間で累計視聴者数が約2万に達した。同ブランドの過去配信と比較しても約6倍の視聴者数だった。
──ライブコマースの視聴者数が好評だった要因は。
SNS広告などさまざまな広告を活用したことで、視聴者数が大きく伸びたと思っている。
広告をうまく活用すれば、視聴者数は伸びるということが分かった。日本でもライブコマースが少しずつ定着しているのではないだろうか。中国のように爆発的に市場が形成されるとは思っていないが、ライブコマースを通じた双方向性のコミュニケーションを楽しんでいるお客さまが増えたと感じている。
──テレビのあり方が変わると話していたが、具体的にはどういうことか。
ハードウェアとしてのテレビも、さらに進化していくのではないかと推察している。先日、テレビメーカーの担当者と話をしていたのだが、テレビ自体にすでにAIが搭載されており、音声入力でテレビ操作が可能だったり、AIが視聴履歴などから、お薦め番組を提案してくれたりするという。
現在、若い人を中心にテレビ離れが起きているが、もしかしたらテレビにそれだけの機能が加わると、若い人が再度テレビを購入して番組を視聴する可能性も高いと思っている。
──前期売上高が減収だったということだが、顧客数が減ったのか、それとも1人当たりの購入点数が減少したのか。
顧客数が減少している。今期を含め、今後はこの課題をしっかりと見つめ直し、事業を強化していく。具体的には、お客さまへのリテンション施策の磨き上げと、新規のお客さまを獲得できる方法を考えて、顧客数減少を解決していきたいと考えている。
リテンションの施策では、2点目3点目を購入してもらえるようにクーポンを配布したり、クーポンの内容自体も充実させていく必要がある。1点目の商品を購入したときに、「こちらの商品もいかがですか」と提案の精度を上げていかなくてはいけない。
新規のお客さまとつながれる方法としては、先日から販売している備蓄米のような出来事をきっかけに新規顧客獲得につなげていきたい。当社は備蓄米販売において、初回の1事業者当たり、1万トンの規模の契約には手を上げられなかったが、1000トンの契約には手を上げさせていただき、政府備蓄米の販売を開始した。
6月下旬よりオンラインで、7月1日以降テレビショッピングでも販売しており、一定数の新規のお客さまの流入につながっている。そこで、ただ備蓄米を販売するだけでなく、おにぎりに合う食材、おコメに合う食材を提案して、購入を促進した。ここのおコメに合う食材の提案こそ、今までテレビショッピングを行ってきた当社の強みが最大限生かされているところだと思っている。
当社は来年で放送開始から25周年を迎える。そこで、幕張メッセで大型のイベントを実施しようと思っている。メーカー企業にブース出展してもらい、訪れた人が気軽にそのブースの商品を購入できるようにしていく予定だ。