毎年1000件ずつ減少
PIO-NETに登録された「マルチ取引(連鎖販売取引)」の相談件数をみると、2021年度が8837件、2022年度が6844件、2023年度が5155件、2024年度が4129件と、毎年1000件ずつ減少していた。
2025年度は、9月末時点で前年同時期比9.4%減の1688件となっている。入力のタイムラグによる未登録があると考えられるが、その影響を差し引いて考えても、減少傾向であるといえるだろう。
ピーク時(2007年度)には「マルチ取引」について2万4000件を超える相談が寄せられていた。2012年度から2020年度までは、「マルチ取引」に関する相談件数は、9000~1万1000件で推移していたが、2021年度から極端に減少傾向に転じたことが分かる。
東京都によると、消費生活センターに寄せられた「マルチ取引」の相談件数は、2020年度が約1300件だったという。2024年度には550件となり、4年間で半減したそうだ。全体的に「マルチ取引」に関する相談件数が減少しているという。
大阪府の消費生活センターに聞いたところ、2022年度の「マルチ取引」に関する相談件数が約500件だったという。2023年度が400件、2024年度は300件と、毎年100件ずつ減少しているそうだ。
「後出しマルチ」もモノなし
「マルチ取引」の相談件数の減少について、複数の理由があるという見方もある。
国民生活センターでは、「マルチ取引」の相談件数が減少している理由について、細かく分析しているわけではないとしつつも、(1)2022年に日本アムウェイ(本社東京都)に対する行政処分があったこと(2)「タスク詐欺」の相談件数が増加している可能性─の2点を挙げた。
「タスク詐欺」は、簡単なタスクを行う副業をうたう詐欺トラブルのこと。国民生活センターでは、「マルチ取引」と「タスク詐欺」の明確な関連は確認していないとしているが、「タスク詐欺の相談件数が急増していることを考えると、関連がある可能性もある」(相談情報二課)という。
「タスク詐欺」の相談件数は、2020年度が1341件だったが、その後、毎年1000件近いペースで増加しているそうだ。
東京都の消費生活センターによると、消費者生活相談の現場では、消費者から相談があった段階ではマルチ取引と思わなかったが、後からマルチ取引だったと気付くという「後出しマルチ」の相談が増えているという。
後出しマルチの典型例としては(1)消費者が、副業や投資などに関するセミナーに参加し、高額な参加費などを含む契約をしてしまう(2)消費者金融でお金を借りて参加費をいったん支払う(3)消費者金融の返済が滞り、セミナー運営会社から、「セミナー参加者を紹介してくれれば5万円払う」などと勧誘を持ちかけられる(4)マッチングアプリなどでセミナーに参加する人を勧誘する─といったケースがあるという。
東京都では、「セミナーに参加するような若い人は、友達付き合いが少なく、身近に勧誘できる人が少ないため、マッチングアプリで勧誘できる人を探すケースが多いようだ」(高村課長)としている。
こうしたケースの場合、PIO-NETに登録するカテゴリーが統一されていないことなどもあり、相談員によって、「マルチ取引」として登録することもあれば、別のカテゴリーで登録することもあるという。
「ただ、『マルチ取引』そのものの相談件数が減っているという傾向はある。特に、健康食品や化粧品などの物販を伴う『マルチ取引』の相談は、かなり少ない。『マルチ取引』の相談の多くが『モノなしマルチ』の相談だ」(同)という。
「現在は、インターネット通販や定期購入に関する相談件数が高止まりしている。マルチなど、人を介して物を買う習慣から、ネットで人を介さずに物を買う習慣へと、購買行動が変化していることもあるのではないか」(同)と話している。
「後出しマルチ」の場合、「マルチ取引」であると気づいたのが、契約してから1カ月後などのケースも少なくないという。そうした場合、クーリング・オフが適用できないケースも多く、簡単に救済できないケースもあるそうだ。