コンタクトセンター業界最大手のトランスコスモスの業績が好調に推移している。2025年3月期の連結売上高は、前期比3.8%増の3758億4900万円だった。単体サービスにおける売上高は、同3.1%増の2440億1700万円だった。執行役員CX事業統括デジタルカスタマーコミュニケーション総括副責任者の金田浩充氏は、「BPOサービスおよびCXサービスの売り上げ増加や収益性改善などにより、増収で着地した」と振り返る。金田執行役員に、前期の振り返りと今期の注力点、今後の展望などを聞いた。
──前期の業績について振り返ってほしい。増収の大きな要因として、当社が注力している「VOCの活用」がクライアント企業に評価され始めたことが関係していると思っている。
具体的には、コンタクトセンターに寄せられるお客さまの声を分析し、そこから得られたインサイトを基に、クライアント企業の成長を後押しする提案を行う。「成長のお手伝いをする」という活動が、特に既存のクライアント企業を中心に深く浸透し、信頼関係の強化とともに少しずつビジネスが伸びてきている状況だ。
──売上高が伸びているということは、企業からの導入が進んでいるからだと思う。理由はどのように考えているか。特に最近、コンタクトセンターを内製で運営されてきた企業さまから「コスト削減をお願いしたい」という相談をいただくケースが増えている。そこで当社は自社開発のプラットフォーム「trans-DX for Support」を活用した、テクノロジーによる業務効率化とコスト最適化を提案している。音声AIやチャットボットを導入して一部業務を自動化したり、ウェブサイトのFAQを充実させて自己解決を促したりすることで、全体のコストを抑制する。
さらに、このプラットフォームの強みは、コスト削減だけにとどまらない点だ。コンタクトセンターに集まる電話の音声データだけでなく、SNS上の声やウェブサイトのアクセスログなど、あらゆる顧客接点の情報を一元的に収集・分析し、可視化する「インサイトBI」という機能も備えている。これにより、クライアント企業は自社のお客さまが何につまずき、何を求めているのかを直感的に把握できる。
この分析結果を基に、当社はウェブサイトの改修や新たなデジタル施策などより踏み込んだ改善提案までを行う。つまり、全体業務を任せていただく代わりに、テクノロジーを駆使してコストを下げつつ、顧客体験(CX)の向上にも貢献するというわけだ。
──現在、どの点に課題を感じているか。課題は大きく二つあると考えている。一つ目は、さらにテクノロジーの活用を浸透させていくこと。現在の日本におけるコンタクトセンター業界は採用市場の激化や最低賃金の上昇により、人手に頼るだけのオペレーションは限界を迎えつつある。今後は、人にしかできない付加価値の高い業務と、AIなどで代替できる業務を明確に切り分けて、より生産性の高い体制を構築していく必要がある。
もう一つは、企業の上流工程の課題を解決できる体制を整えていくこと。これまでは寄せられる課題も「窓口をどうしましょうか」という相談が多かったのだが、最近では「この事業を成長させるにはどうすればいいか」といったより経営に近く、抽象度の高い課題を相談いただく機会が増えている。こういった上流の課題に対し、当社が持つVOC分析力や複数チャネルを横断した知見を生かして、的確な解決策を提示できる組織能力を高めていくことが重要となる。
──今後の展望や企業として目指す姿について伺いたい。今後は売り上げ規模を闇雲に追い求めるのではなく、より収益性を重視した事業展開に注力していきたいと考えている。そのためには先ほど申し上げた上流課題へのアプローチが必須になる。クライアント企業の複数の窓口や業務プロセスを一体でお預かりし、BPRの視点から全体最適化を図っていく。そうすることで、単発の業務委託ではなく、より長期的で強固なパートナーシップを築くことができるとみている。