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2025.11.11

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【コンタクトセンター特集】 オークローンマーケティング、人とデジタルのバランスに悩む 浅野氏「大きな過渡期に突入」

Inbound Call Sec.Manager札幌センター長代理・瀬尾諭史マネージャー(写真左)とCS Sec.Manager札幌センター長代理・佐藤健太郎

テレビショッピング番組「Shop Japan(ショップジャパン)」を運営するオークローンマーケティング(本社愛知県、ロバート・W・ローチ会長兼社長)が、事業の根幹であるコンタクトセンターの抜本的な改革に乗り出している。マーケティング本部執行役員の浅野茂樹氏は、「現在、人とデジタル、どういうバランスを取ればいいか迷っている。会社として大きな過渡期を迎えていると思っている」と打ち明ける。

コンタクトセンター業界ではAIによる完全自動化を目指す動きも活発化しているが、シニア層を主要顧客に抱える同社にとって、「人と人とのコミュニケーションから生まれる安心感」は譲れない。

しかし、人件費や物流費の高騰は経営を圧迫しており、従来のビジネスモデルのままでは、事業が立ち行かなくなる恐れもあるという。浮かび上がる課題に対し、同社は「人とデジタルの最適なバランス」の模索を開始した。単なるコスト削減のためのデジタル化ではなく、顧客満足度を維持・向上させながら、事業として成長するための新たな仕組みづくりに着手した。

改革の柱の一つが、IVR(自動音声応答システム)の積極的な活用だ。これまで電話が殺到した際の補助的な役割として機能していたIVRを、受注業務の主要なチャネルの一つと位置付けた。インバウンドコール部門を率いるInbound Call Sec.Manager札幌センター長代理の瀬尾諭史マネージャーは「特に低単価な商品では、人が対応するよりもIVRで受注した方が利益率は高い。ビジネスとして考えれば必然の選択だと思っている」と説明する。

しかし、この選択は新たな課題も浮き彫りにした。IVRにつながった顧客の約半数が、注文を完結できずにいたという。

分析の結果、アップセルの案内が多かったり、シニア層がスマホのボタン操作に不慣れだったりすることが原因と判明した。これを受け、音声ガイダンスをより人間らしい温かみのあるものに変更し、案内内容を簡潔にするなど、地道な改善を続けている。

「デジタルツールを導入すればするほど、逆説的に『人』の介在価値が問われる。IVRにできない付加価値、つまりお客さまに寄り添った提案こそが、これからのオペレーターの核心になる」(瀬尾マネージャー)と話す。


専門教育部隊を発足


「人の価値」を最大化するため、今年、専門のトレーニング部隊「TQA(Talk Quality Assurance)チーム」を正式に運営開始した。「TQAチーム」の役割は、単なる新人研修ではない。既存オペレーター一人一人の課題を分析し、個別の育成プランを作成する。

顧客の立場を体験する研修も実施する。特殊な器具でシニア層の聞こえ方をシミュレーションし、オペレーター自身が「もっとゆっくり、はっきりと話さなければ伝わらない」と体感してもらうことを考えている。こうした共感力の養成を通じて、マニュアル通りの対応を超えた、真の顧客視点を育んでいる。

同社のもう一つの強みが、VOC(顧客の声)を経営に生かす全社的な仕組みだ。カスタマーサポート部門のCS Sec.Manager/札幌センター長代理の佐藤健太郎氏は「私たちのセンターでは、月に一度、お客さまからの意見を『VOCレポート』としてまとめ、経営陣を含めた全部署に共有している」と話す。

レポートは、単なる報告に留まらない。商品の使いにくさに関する声が多ければ商品開発部門にフィードバックし、次期モデルの改良につながることもあるという。取扱説明書が分かりにくいという意見が届けば、制作部門が内容を改訂する。テレビ番組の表現についても、VOCを基に即座に修正を加えていく。

「このスピード感こそ、自社でセンターを運営する最大の強みだと思っている。お客さまの声を事業全体をより良くするための貴重な経営資源として捉え、全社的な改善サイクルに組み込んでいる」(佐藤氏)と方針を語る。

コールセンターを、単なる受付窓口ではなく、事業改善の起点となる「ハブ」として機能していく。

「コールセンターは単なるコストセンターではない。会社の全部署が交わる『要』であり、価値創造の拠点だ」(佐藤氏)と断言する。

その言葉通り、同社では新入社員から他部署の社員まで、定期的に現場での研修を受ける文化が根付いている。現場のリアルな声が、常に経営の中枢に届く仕組みを構築している。

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