理化学や研究機器大手アズワンは2025年3月期の売上高が1000億円を突破し、今期は1089億円を見込んでいる。ECを起点に成長を続けているが、今後の成長にはデータベースの利活用が鍵を握るとしている。井内卓嗣CEOに話を聞いた。
──ECが好調に推移している。
ウェブ限定の商品や商品数の拡張など、EC単独での施策は注力している。一方、ファクスや電話などのアナログ注文からECにシフトしたという時代の変化に過ぎないという見方もできる。
ただ、当社のECは売る機能だけでなく、データベースの構築を担う重要な役割を担っている。
業界のトランザクションやユーザーの課題解決に役立つ情報なども全てデータベースに収集し、情報を可視化できるようにしている。データ活用や一つの支援ツールとしての利活用も可能だ。
このデータベースの構築が当社の今後の成長の核となる。ECを含めて今後も強化していく。
【可視化と連携が鍵】
──データベースを応用したサービスは。
サプライチェーン(SC)の最適化において、あらゆる商品の情報を集約した「SHARE‐DB」や、在庫の可視化する「4‐Stock」などがある。
2027年までに「SHARE‐DB」の商品点数は1700万点に拡大させる計画だ。
すでに、サプライヤーと商品の情報や在庫は、自前で在庫を持たずに裏側で連携できるようにしている。このデジタル在庫を可視化していくことで売上拡大につなげる。
「4‐Stock」は、サプライヤーと当社、販売店、ユーザーの4つの在庫情報を全て連携させて、それぞれの状況に応じて自動発注する仕組みとなる。中身は、サプライヤーと当社、販売店とユーザーの区分に分かれているが、在庫情報は見える化している。
最新データとしてサプライヤーの登録社数は5000社以上。商品に左右されるが常時稼働しているのは約4400社だ。
昨今は新規サプライヤーが増えている。自前で営業しなくても自動で流通が発生するため受注率の向上に寄与する。サプライヤーと商品数が増えるほど、当社の価値も高まるためウィンウィンの関係が築けている。
現在、海外からの調達も増えていて、全体の3割程度を占めるようになった。プライベートブランド(PB)品が主だが、ECの海外展開も進めている。
海外展開は当社の自社ECサイト「AXEL(アクセル)」をグローバル化していて、現在は6カ国に対応している。言語を含めて精度を高くしているため、受注も増え始めている。
【業績好調も物流費維持】
──SCの最適化は物流が重要となるが。
今年6月から、大阪と東京に続き九州DCが新たに稼働した。棚搬送型AGVを導入して工数を削減しつつ、コストを抑えたオペレーション(OP)で運用している。
売り上げが伸長しながらも物流コストは変わらず横ばいを維持。これは当社にとって大きな価値だとみている。
コスト維持の裏側は細部まで対応していることにある。共同物流や自社便、大手の運送会社などとシステム上で連携してメーカーもユーザーも当社のタリフ(運賃)を適用するなど、常に最適な状態を作り上げている。
物流領域は今後もさらに最適化できるとみている。流通情報と拠点間の距離、配送コストなどを常時シミュレーションして、ユーザーごとに最短ルートを設計できるようにすれば最短距離で配送が可能になるだろう。
【レンタルで三方よし】
──その他、注力している事業はあるか。
レンタル領域は特に注力していく。ただ、単にレンタルをやりたいという方向性ではない。
理化学や研究分野の市場は3000億円程度が消耗品類だが、分析や計測機器類は1兆円の市場がある。市場の活性化にレンタルが貢献すると判断し進めている。
測定機器類は、1製品の購入単価が高く導入のハードルが高い。現場では予算がない研究機関や研究者が多く、コスト問題で研究が進まないケースが多分にある。
その逆もあり、メーカー側も予算をうかがいなら営業を行うため、販売価格の調整が余儀なくされる。値引き販売を続ければ業績に影響してしまう。
ユーザーとメーカーの間に当社が入ることで、それぞれの課題を解決することができる。仕組みは、直接メーカーから商品を購入してそれらをユーザーにレンタルとして提供している。
機器類は当社の資産になるが、買い取りも可能にしている。機器類を使って成果が出れば買い取り、難しい場合は延長または返却の選択となる。
レンタルという選択肢は、三方よしの商売につながる。レンタルの市場性が確立していないからこその商機もある。
今、レンタルできる商品は1200SKUに拡大し、機器類の所有台数は5400台に増やした。キャッシュの余力があるからこそ投資できるため、引き続き注力していく。
──今後の取り組みは。
レンタル事業を強化するため、2027年1月に「レンタル&校正センター」を新設する。
レンタルや校正だけでなく、現在は出張点検も強化している。すでに、あらゆるメーカーと連携しているため、通常の点検から出張まで行える体制を敷いている。点検中の代替機の提案もできるため、万が一、現場でトラブルが発生しても解決することができる。
実は、ゼネコンとの連携も進んでいる。研究所のラボ建設において、導入する設備機器の選定をはじめ、施設の開設に必要なノウハウを持っている。ハードはゼネコンで、設計は当社というスキームのもと新しい形ができ上がりつつある。
研究領域の「時間がない」「お金がない」「もったいない」の「3つのない」を解決できるように、当社しかできない新しいエコシステムの形成に尽力していく。
