迫りくる「2040年問題」
原:まず直視しなければならないのは、人口動態の急激な変化です。団塊ジュニア世代が高齢者となる2040年には、労働人口が現在より約1500万人も減少すると予測されています。一方で高齢者は増え続ける。このままでは現役世代の社会保障負担は限界を超えてしまいます。
森下:私も厚生労働委員会での議論を通じて、現役世代への負担がこれ以上増えることへの危機感を強く抱いています。かといって、高齢者の方々の暮らしを切り捨てるわけにはいきません。「誰かが損をする」のではなく、持続可能な仕組みに変えていく必要があります。
原:日本の平均寿命は伸びていますが、自立して生活できる「健康寿命」との間には、男性で約9年、女性で約12年の乖離(かいり)があります。日本の保険医療は世界最高水準ですが、これは「病気になってからの治療」に特化しているからです。
今の医療制度だけでは、健康寿命をこれ以上伸ばすことは難しい。だからこそ、病気になる前の「予防」と、高齢者が社会参加し続けられる仕組みが不可欠です。
「孤独」は最大の健康リスク
森下:私は宮城県に住んでいますが、震災後の仮設住宅などで、高齢者の「孤立」や「独居」の問題を目の当たりにしてきました。人とのつながりが希薄になると、気力が低下し、フレイル(虚弱)があっという間に進んでしまう。
原:実は近年の疫学データでは、「食事」や「運動」以上に、「孤独」が健康に悪影響を及ぼすことが分かってきています。
例えば、同居しているのに一人で食事をする「孤食」の高齢者は、そうでない人に比べて要介護リスクが1.4倍になるというデータもあります。WHO(世界保健機関)の憲章でも、健康とは単に病気でないだけでなく、「身体的・精神的・社会的」に満たされている状態だと定義されています。この「社会的健康」こそが、今の日本に欠けている視点です。
森下:本当にそうですね。地域のコミュニティーがあり、そこに行けば誰かがいて、会話が生まれる。そうした「居場所」がある地域の方は、震災復興の中でも非常に前向きで元気でした。
原:私たちが展開する「ハクジュプラザ」も、単にヘルストロンにかかる場所ではなく、地域コミュニティーの場として機能しています。
週に何度も通うために、お年寄りが身支度を整え、外に出る。コロナ禍でも「ここに来るために口紅を買ったのよ」と笑顔を見せてくれたお客さまがいました。人に見られる意識、他者との会話、そして「自分と同じ悩みを持つ人がいる」という安心感。これらが心身の健康を支えているのです。
「攻めの予防医学」と産官学の連携
森下:政府としても、高市早苗総理が言及されているように、「攻めの予防医学」へと舵を切ろうとしています。
ただ、これまでの「健康日本21」のような啓発活動だけでは、健康に関心のない層には届きにくいという課題もあります。
原:おっしゃる通り、健康イベントに来るのはもともと健康意識が高い1割の人たちだけです。残りの9割にどうアプローチするかが鍵です。
例えば、歩いたポイントが自分の利益になるだけでなく、「地元の小学校への寄付になる」といった、社会貢献とひもづいたインセンティブ設計など、行動変容を促す工夫が必要です。
森下:エビデンスに基づいた政策も重要ですね。
「なんとなく体にいい」ではなく、データを活用して、事前に病気を防ぐことが経済的にもメリットがあることを示していく。これは国土強靭化のような「事前防災」の考え方と同じです。
原:私はこれからのヘルスケアは、厚労省や経産省といった縦割りではなく、大学などのアカデミアと自治体、そしてわれわれのような民間企業が一体となった「産官学」の連携で進めるべきだと考えています。
森下:私も環境政務官の立場から、環境と健康のつながりを感じています。原社長がおっしゃるように、高齢者が70代や80代になっても、週数回でも社会と関わり、役割を持ち続けること。それがご本人の生きがいになり、結果として日本の社会保障を支えることにつながります。
原:「治療」から「予防」へ、そして「孤立」から「つながり」へ。制度に頼るだけでなく、一人一人が社会との接点を持ち続けることが、日本の明るい未来をつくると信じています。
