池田・染谷法律事務所の代表パートナーである染谷隆明氏は、消費者行政実務について深い知見を有している。消費者庁・表示対策課に勤務し、景品表示法への課徴金制度の導入や、課徴金のガイドラインの立案などを担当したこともあるという。消費者庁の調査対応についても熟知しており、広告・キャンペーンなどのマーケティング法務戦略に関する案件への対応などについて、豊富な経験を持つとしている。染谷氏に、近年の消費者問題と、事業者が注意すべきことについて話を聞いた。
──健康食品通販について、事業者からは、どういった相談が寄せられることが多いのか。
健康食品では、何かしらの訴求をしていくわけだが、そのエビデンスをどこまで準備すればいいのか、といった悩みを持つ事業者が多い。
再現可能な合理的根拠がない場合などは、実務上問題になることが多いので注意が必要だ。
定期購入に新たな課題
一方、東京都や国民生活センターなどで講義していて感じるのは、定期購入に関する相談が消費者から寄せられるケースはまだまだ多いということだ。2022年の改正特定商取引法施行以降も、定期購入に関する相談件数は増えている。妨害型のダークパターンが原因で、「定期購入の解除がしにくい」と訴える消費者も多いようだ。
──定期購入の問題をより具体的に教えてほしい。
とある通販企業の定期購入解約では、消費者がまず会社に電話で連絡し、その後ラインで友だち登録、さらにアンケートに10問回答しないと解約できないということがあり、問題になった。
世界的に見ても、定期購入は「入りやすいけど、出にくい」ということが問題になっており、対策について議論している国が多い。2クリックで入会できるのであれば、退会も2クリックでできるようにする、といったように、入会と退会のしやすさを同様にするという動きが、今後は出てくるのではないか。
電気通信事業法には、解約することを妨げないような適切な措置を講じなければならないとの文言が記載されている。定期購入についても、そういった規制を作っていく必要があるだろう。
──どういった点に注意すべきか。
実際処分されたケースとしては、「解約しやすい」と書いてあったにもかかわらず、解約しにくかったケースがある。最終確認画面への法定表示はもちろん必要だが、そこに書いておけばいいという話ではない。
「定期購入の解約を防ぐため、工夫を凝らしすぎた結果、処分されてしまった」といったことにならないよう、解約の動線は改めて確認しておくべきだ。
タイムカウンターを載せたことが誤認につながったと問題視されたケースもある。これは化粧品のケースだが、購入する際に、10分以内に購入すれば10%オフになるという表示を出していた。購入者からすれば、今から買うものが10%になると思ってしまいそうだが、実際はアップセルだった。
残り時間が減っていくようなタイムカウンターを載せると、購入者は焦ってしまう。詳細などを読まずに誤認してしまう可能性が高いだろう。
顧客を焦らせて、意図していない行動をとらせてしまっていないかは、注意する必要がある。
ホテルの予約サイトで、「残り何部屋」という表示をしていることがある。自分が泊まる日の残数であれば有益な情報だが、泊まらない日の残り部屋数は、関係のない情報だ。だが、予約を考えている人は、「残り少ないから、早く予約しないと」と焦ってしまうかもしれない。微妙なケースではあるが、購入、契約してほしいあまりに、「焦らせてしまう」ことのリスクは、今後高まっていくかもしれない。
過去には、「注文殺到につき、製造や発送が追いつきません」という表示が優良誤認表示ととられたケースもある。
ウェブ上の表示は、最初に作ったときは、法令に準拠し、専門家などの意見を聞いて作っていることがほとんどだ。
だが、「こうしたほうがいいかも」とちょっとずつ修正していった結果、気づいたら法令に違反していたというケースが少なくない。
最初だけでなく、変更したタイミングでチェックしたり、定期的なチェックを続けたり、頻繁にチェックしていくことが、致命的なミスを防ぐことにつながっていくはずだ。
