狙いと実務のギャップ
検討会の事務局である消費者庁の取引対策課は、注文確定直前に契約内容をすり替える悪質な「アップセル」などの対策として、電子書面などの改変不可能な形で、事後交付ルールを提案している。すでに多くの事業者がメールを送信している実態を踏まえ、「マイナーチェンジで対応可能な、コストを抑えた制度設計」を目指す構えだが、委員からは実務上の課題が相次いで指摘された。「本文」か「リンク」か
最大の論点となっているのが、通知の具体的な形式だ。消費者側の委員は、スマートフォン利用者の利便性を考慮し、「PDFは高齢者が開かない恐れがあり、フィッシング攻撃などのセキュリティーのリスクもある」としてメール本文への完全記載を強く推奨した。
これに対し事業者側委員からは、「利用規約や詳細な取引条件のすべてをメール本文に書き切ることは実務上不可能である」との反論が上がった。
長文のテキストはかえって消費者の誤読を招くとして、規約部分については外部URLへの「リンク参照」を容認するよう求める声が強い。
事務局が補足案として提示した「契約成立前に最終確認画面自体をメールなどで送り、その中で注文を確定させる」という手法に対しても、高度なシステム連携を用いる事業者から「一連のプロセスの自動化が阻害され、かえってマイナスになる」との懸念が示された。
事業者側委員からは、多くのECサイトが導入している「会員マイページへの購入履歴保存」をもって代用とし、事業者に選択の裁量を認めるべきだとする折衷案も浮上している。
前回の特商法改正時にも最終確認画面の対応に伴うシステム改修負担が業界内で問題となった。
今回の電子交付義務化が現実となれば、金額や契約条件の全項目をどのように網羅し、かつスマートフォンの限られた画面やメールの仕様に落とし込むか、各事業者は再び運用の見直しとシステム投資を迫られる可能性が高い。
実務現場から上がる懸念
こうした検討会の議論に対し、ECシステムを提供するベンダーや通販事業者、経済団体からは、実務上の運用や技術的課題、市場への影響についてさまざまな見解が示されている。定期通販向けのカートシステムベンダーの担当者は、今回の法改正案について消費者保護の観点から「あるべき姿」と評価する。 担当者は「定期購入の完了メールに『〇ヶ月継続した場合の総額〇〇円』といった支払条件をデフォルトで記載することは技術的にさほど難しくない」と言及した。
一方で、(一社)新経済連盟(新経連)は、一律の義務化に対して慎重な姿勢をとっている。
新経連は、「現状、一般的なネット通販で注文内容の確認メールを送信している事業者は多いが、最終確認画面の記載内容とメールの記載内容は必ずしも一致していない」と現場の実態を指摘している。
その上で、一般的な通販において、特段の問題が起こっていない分野については、システム改修や運用変更を強いるべきではないとのスタンスだ。
さらに、メールの送信のタイミングや、記載方法など、未確定要素が多いことへの懸念を示している。
新経連は、消費者庁に対して「現状の実態を踏まえ、事業者と具体的な検討を丁寧に重ねるべき」としている。
「個人情報」の壁
大手通販事業者の担当者からは、フロントシステムにおける「デバイスごとのUIの違い」や「セキュリティー」に関する具体的な課題が提示された。この担当者によると、PC向け画面とスマートフォン向け画面で、最終確認画面の表示構成が異なっており、PCの画面では、個人情報まで含んで表示させているケースがあるという。
この場合、「最終確認画面と同一の内容」をそのままサンクスメールに反映させるとなれば、メール内に詳細な個人情報をどこまで記載すべきかという、セキュリティーの難題に直面することになると考えるそうだ。
さらに、近年急速に普及している「チャットボット」経由での購入プロセスについても、「ボットの画面遷移において、一体どこを『最終確認画面』と定義するのか」という法的な線引きの曖昧さも指摘している。
画一的な基準の導入は、新たな購入体験の創出を阻害しかねない。
消費者庁では、最終確認画面の一律送付の義務化案について、送付の方法については、別途検討の場を設けて慎重に議論するとしている。
前回の法改正では、最終確認画面での定期購入の総額表示などが義務化されたが、結果的に、定期購入に関する消費者トラブルは、減るどころか増えるばかりだ。
まっとうな事業者が多額のコスト負担が強いられる法改正よりも、実効性が高く、消費者被害を減らせる法改正を望む。
