有効求人倍率が高水準で推移し人材採用が一段と厳しさを増す中、訪販企業や食品宅配企業は採用の在り方で試行錯誤を続けている。販売組織で女性販売員が主体だった企業では、新たに男性を採用したり、外国人を採用したりして安定した人材確保につなげる成功事例も出てきている。食品宅配のエスエルクリエーションズでは、2024年から男性販売員の採用を開始。ヤクルト本社では2023年11月から、ジェンダーフリーをテーマにしたテレビCMを開始し販売員の応募者数を増やしている。化粧品をサロン販売する企業では、顧客からの紹介といったリファラル採用に力を入れるところもある。副業やダブルワークへの関心が高まる中で、柔軟な働き方の提案でこの難局を乗り切ろうとする訪販・食品宅配各社の取り組みを探った。
男性販売員を積極採用
「宅配事業は成長が止まっているという認識だ。物流の課題もあり、新規組合員を開拓するための人員を割ける状態ではない」2月6日に都内で開催した記者会見で日本生活協同組合連合会の藤井喜継専務は、人材に起因する生協の経営に対する危機感を示した。こうした状況は生協に限らず、訪販や食品宅配をはじめとするマンパワーで経営する業界に共通している課題だ。
ヤクルト本社では、ヤクルトレディ(YL)が販売する機能性表示食品「ヤクルト1000」の販売が好調な一方で、YLの確保が課題になっている。2023年9月末のYLは2023年3月末比で52人減の3万2657人、ヤクルトビューティ(YB)は208人減の3370人と減少傾向にある。
一方で、「ヤクルト1000」「ヤクルト400W」といったヒット商品の効果でYL1人当たりの収入は増えており、離職率は減少傾向にある。YLの平均収入は月約15万円で上昇傾向にあるという。YLの働き方の選択肢も増やしている。家族の扶養から外れて、収入の上限を気にせず働くことができるYLの「雇用化」「社員型YL」のほか、短時間の希望者も受け入れている。
2023年11月から放送を始めたテレビCM「ヤクルト宅配 『みんなのもの』篇」では、ジェンダーレスに対応するため男性YLが登場。「反響があり、その後の応募数は増加している」(広報)と成果につなげた。ヤクルト本社はすでに男性の販売員が約400人在籍している。定年退職した男性社員を販売員として迎える販売会社も出てきている。
ヤクルト本社では、全国の販売会社への支援として、求人サイトへの広告出稿や本社が制作した採用サイトによる販売会社への見込み者の紹介、年2回開催する「お仕事見学キャンペーン」の全国展開を実施。ウェブを活用した人材確保の取り組みを支援する。その成果もあり2023年度の応募数は、前年の5割近く増加した。また、「お仕事見学キャンペーン」期間には、YLからの友人紹介に対して特典を付与する「リファラル採用」も促進。「求職者のニーズに合わせた多様な働き方を整備し、男性、シニア、外国人など多様な人材の受け入れを行うなど間口を広げる」(広報)方針だ。
食品宅配のエスエルクリエーションズ(本社東京都)も1970年の創業以来、女性の販売員が中心だったが、2024年から本格的に男性スタッフの採用を始めた。男性に加わってもらうことで販売組織の拡大につなげる。当面は100人の男性販売員の起用を目指す。
同社は販売員が開催する「無料試食会」で顧客になった人から、製品に関心が高く、販売員として活動意欲のある人を採用している。コロナ禍で無料試食会の開催回数が減少したことで「この流れが完全に断ち切られてしまった」(佐藤健社長)と話す。近年は、販売員の獲得が思うように進まず減少傾向にあった。「コロナの3年間は新規の販売員が大きく減り、一定の離職者がいたことで全体的に減少した」(佐藤社長)と話す。
先行して「SLパートナー(仮称)」として、すでに男性の販売員(21~79歳)が31人在籍し活動している。公募はしておらず、既存販売員の家族のほか、友人などのつながりで採用することが多い。今後は副業や学生のアルバイトなどの取り込みも視野に入れる。
男性販売員に期待するのは、2024年に2000件の導入を目指す、オフィスで働く従業員向けに販売する常備型社食事業「Office Premium Frozen(オフィス・プレミアム・フローズン)」の業務だ。佐藤社長は男性の販売員を採用する先について「日本中の男性に料理に関心を持ってもらうことにもつなげていきたい」と話す。
食品宅配、離職防止策を実施
食品宅配大手のヨシケイ開発(本社静岡県)は、本社で採用サイト「ヨシケイスタッフお仕事情報」を運営しているほか、2カ月に一度のペースで開催する「営業責任者会議」で採用状況について、FC間で成功事例を共有。人材の確保につなげているという。
採用サイトでは「スマイルスタッフの1日」を動画で公開。採用を実施しているFCが地図上で分かるようにしている。FCで成果を上げている事例では、休みやすい環境づくりの一環として、スタッフが休んだ時に代わりに対応する「代配スタッフ」の確保に取り組んで労働環境の改善につなげている。
ヨシケイグループの愛媛、香川、高知の3県のフランチャイジーを手掛ける、フードサポート四国(本社愛媛県)は昨今の物価高騰を受け、2022年7月と2023年7月に各5000円の賃金ベースアップを実施した。コロナ禍で業務体制の変化も大きかったため、2023年5月から人事評価制度を刷新し、評価・昇給基準を拡充して明確化した。採用基準の見直しにも着手している。面接内容の見直しや性格検査などを試験的に始める。
2022年からは自社のサービス利用時の社員割引の比率を高めた。「社員の日々の食生活や家計のサポートのほか、自社の商品・サービスへの理解度向上にもつながっている」(広報)と話す。
販売員「まごころスタッフ」を抱えるワタミの「宅食事業」では、ヤマト運輸が契約を打ち切った小型荷物配達の個人事業主の受け入れを始めた。1000~2000人の受け入れを計画し、すでにヤマト運輸が提供している求人サイトにも掲載している。全国のワタミの宅食営業所で順次説明会を開催しているもようだ。
パルシステム生活協同組合連合会(本部東京都)は、グループで運輸・物流専門会社のパルラインにおいて、障害者雇用や長期無業者就労支援、生活困窮者の自立支援に貢献する採用活動を行っている。
パルラインでは2019年度から、給付型奨学金付アルバイト制度を設置し、就労支援付や給付型奨学金の給付生の募集を開始した。パルシステムグループ7つの組織では、貸与型奨学金学費返済支援制度を設け、27歳未満で採用3年以内、貸与型奨学金の返済義務を有する職員に対して、学費返済資金を助成支援することで人材確保につなげる。