公益社団法人消費者関連専門家会議(ACAP、事務局東京都、坂田祥治理事長)は1980年に設立、企業や団体の消費者関連部門の責任者や担当者が業種を超えて集まる団体だ。会員の資質向上と消費者志向経営の支援、消費者や行政、企業の橋渡し役として、調査・研究を行っている。齊木茂人専務理事に10月施行の改正労働施策総合推進法について、企業が取り組むべきこと、カスハラ防止に対する法律や条例の制定が相次いだ背景などについて聞いた。
改正労働施策総合推進法とは
──改正労働施策総合推進法とはどのような法律なのか?
カスタマーハラスメントについて、事業主の対策が義務化され、具体的な指針が示されたので、義務の内容が明確になった。義務化されたとはいえ、罰則はない。しかし、違反した場合は、労働基準監督署などから行政指導を受ける可能性がある。
想定されるのは、従業員がカスハラの被害に遭っているのに、企業が何も対応せず、その状況が労働基準監督署などが把握して、表沙汰になった場合に行政指導の可能性が出てくる。どのようなカスハラを受けていたのか、被害の程度などだけでなく、企業がどのような対策を取ったかも問われる可能性がある。対外的には、企業価値の棄損につながってしまうだろう。
企業がまず取り組まなければならないことは(1)カスタマーハラスメント対応方針の作成と周知(2)社内相談窓口の設置(3)カスハラ対応マニュアルの作成と周知─の三つだ。これを9月末までに策定する必要がある。
今回の義務化では、法人間の取引についても対象になることを従業員に周知させる必要がある。
──この法律ができた背景については?
外部環境の変化が挙げられる。消費者一人一人の声がSNSを通じて広く拡散して打ち出せるようになっている。もともと「個」の存在である消費者がSNSツールによって発言力を増してきている。企業もSNSの発信に目を向けて神経を使っているし、仮にネガティブな投稿の場合は従業員が受ける精神的ダメージも大きくなっている。
商取引の在り方や商流の変化もある。従来は対面での売り買いが中心だったが、人を介さない場面が増えている。事業者はコミュニケーションが取りにくい状況で対応を強いられている。
内部に目を向けると、人にやさしい会社でなければ成り立たなくなってきている。従業員を守るという点もそうだが、新しい人材の獲得が難しくなり、離職されるリスクも増えてくる。
企業のカスハラ対応が義務化
──ハラスメントに対する対応も厳しくなっている。
2020年の同法改正を境に、ハラスメント全般に対して世間の関心が高まっている。ハラスメントに対する努力義務だった対応が、約6年間かけて義務化されることになった。その間2023年には労災基準の変更もあった。
もともと、企業には従業員に対する安全配慮義務が課せられているが、今回の義務化に伴いより具体的な対応を求められることになる。
──何をどうしたらいいのか分からないという声も少なくない。
厚生労働省が運営するハラスメントに対する情報サイト「明るい職場応援団」に、「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」がある。このマニュアルを参考にして社内で作成することも可能だ。
方針やマニュアルについては、従業員がいつでも確認できるよう冊子にするとか、社内のイントラネットで共有するなどの対応が求められる。
ここ数年、企業はお客さまに対しての発信に力を注いできた。今回の義務化は、従業員を守ることに重きを置いており、従業員への周知が及んでいないことも課題だ。
──社内窓口の設置とあるが、何か知識が必要なのか?
パワハラなどに関する相談対応窓口を社内に設けていることを前提に、より具体的なアドバイスをするために、お客さま相談窓口の担当者を追加で入れるなどの対応も選択肢としてある。中小企業であっても、社内組織横断のプロジェクトチームを作って対応することが望ましいと助言している。
窓口担当者はまず「相談を受け付ける」ことが重要になる。ただ、頻繁に案件があるわけではないので、本来の業務と並行して取り組みつつ、社内で知見のある社員の協力を得られる体制にしておくと望ましい。
義務化の8項目目には「特に悪質と考えられるカスハラへの対処の方針をあらかじめ定め、従業員に周知し、当該対処を行うことができる体制が整備できている」とある。具体的には、警察への連絡だが、誰が連絡するのかが定められていれば良い。警察署の生活安全課の連絡先を知っておくことや、「特に悪質」の定義を企業ごとに定めておく必要がある。警察へは相談という形で、対面で訪問することが望ましい。
有料のセミナーを開催
──ACAPでは、企業に対してどのような支援を行うのか?
中小企業向けに半日で行うカスハラ対策の有料オープンセミナーを随時開催している。7月24日には「消費者志向経営オープンセミナー~苦情を成長の力に!今すぐ取り組むカスタマーハラスメント対策~」を開催する。こうした有料セミナーの中で、方針やマニュアルといった具体的な「ひな形」を提示している。
今後は、従業員教育の一環として、オープンで利用できるイーラーニングの教材の作成を予定している。もちろん、ACAP以外でも、企業のカスハラ対応に関する相談を受けてくれる団体もあるため、さまざまな手段で対応策を検討してもらいたい。
──販売代理店などの直接雇用契約のない場合はどのような対応をすればよいのか?
訪販企業の販売員や連鎖販売取引の会員、外部委託のコールセンターのスタッフなど直接雇用契約がなくても、企業側は対応を求められる。外部スタッフだからといって無関心でいるという対応は是正していかなければならない。
