──社長に就任した経緯を伺いたい。
私自身の経歴でいうと、大学新卒後、長らくコールセンター関連の仕事に従事していた。複数の転職を経て、2011年4月、ディー・クリエイトに入社した。その後、2015年4月にD&Iパートナーズへ取締役専務として出向し、センターの業務改善や経営の安定化に注力してきた。
2019年4月に取締役副社長に就任し、2020年に出向が解除されて転籍となった。そして2023年6月、同社の社長に就任した。
私が取締役副社長に就任したとき、経営を熟知していなかったこともあり、当時の社長から経営のことについて一から教えてもらった。そしてその社長の退任に伴い、私が社長に就任した。
──博報堂コネクトは以前、D&Iパートナーズという社名だったと記憶している。社名変更の理由は。
さまざまな理由が関係している。「D&Iパートナーズという社名は業態が想像しにくい」「知名度が低く採用に不利」という声のほか、「対外的にもコールセンターの会社だと思ってもらえない」などの声が社員から寄せられていた。
そこで、2020年ごろから社名変更プロジェクトが立ち上がり、「『対話』を通じて、生活者と企業との関係をつなぐ役割になる」という決意のもとコネクトを社名に選んだ。
──親会社となる博報堂から期待されていることは何か。
まずは博報堂DYグループの中で当社の存在感を高めていくことだ。当グループには、複数のコールセンター会社がある。また、社名を変更して間もないということもあり、まだグループ全体で見ても、クライアントから見ても、博報堂DYグループのコールセンター企業として、「博報堂コネクト」を思い浮かべる人は少ない。この認識を変えていきたいと思っている。
EC企業の支援にも注力していきたい。当社のこれまでは顧客対応の9割以上が電話だった。だが、コロナ禍にECの利用者が増え、徐々に新聞・テレビというアナログ媒体からECなどのデジタルチャネルへ利用者が流れている。当社としてもサービス領域を電話からECへシフトせざるを得ない。
当社の強みは、いい意味で大手企業ではないため、”小回りが効く”ことだと思う。他社がやりたがらない、やれない業務でも、当社は実行する。また、当社はコールセンターだけではなく、マーケティングや広告運用なども行う。現場から直接クライアント企業へ提案し、それに必要な対応を実施し、クライアント企業の要望に応えていく。そこはD&Iパートナーズからの経験が生きている。
会社の規模的にも当社だけで大規模な案件を運営することは難しい。そのため、協力会社に業務を再委託し、それら協力会社の品質管理を行うベンダーマネジメントという手法を通じて、大規模な案件に対応している。
──村田社長は過去、金融系企業のコールセンターでオペレーターや管理者としての経験もある。豊富な経験を現場スタッフに伝えていたりするのか。
私が直接伝えると、それは”命令”になってしまうため、意図的に控えている。以前は現場スタッフに「ここはこうした方がいい」など伝えていたが、私もここ数年間で学習した。
現場の最前線で働くオペレーターやSV(スーパーバイザー)には直接言わないが、現場を監督するセンター長には、会社で目指す目標などを示している。そしてセンター長がオペレーターやSVの働く意欲をかき立て、最適な顧客対応を実現している。「エージェント(働く人)ファースト」の先に「クライアントファースト」があると考えており、働くオペレーターを”駒”として見ることなどは決してない。
──今年の貴社の展望は。
コールセンターの領域を広げつつ、EC支援に注力していくことだ。そしてAI(人工知能)などのデジタル化もうまく取り込んでいく。
──コールセンター業界はAIの浸透で人が必要なくなるという見方もある。貴社はどう捉えているか。
確かにこの業態がいつまで続くのかは気になるところだ。AIの普及やDXの推進で、コールセンターは無人となり、アウトソーサーとしての仕事がなくなるのではないかという声も聞かれる。
だか、個人的にはAIには限界があると感じている。人間が対応する分野は決してなくならないだろう。「送料はいくらか」「ギフトに対応しているのか」など、シンプルな問い合わせにはAIなどの自動化でも問題ない。
一方でAIは、会話はできるが、”心のこもった感情豊かな対話”はできない。それこそ指摘を受けたときや難案件において、AIのような無機質な対応では、お客さまは満足しない。
この”心を込めた対話”は当社が最も得意とするところで、今後もこの「対話力」を磨いていく。顧客のニーズを発見し、クライアント企業に共有する。このことこそ当社が追い求めていく姿であり、将来に渡り、現在の業態を続けていけるよう、私個人としても尽力していきたいと考えている。