化粧品・健康食品通販大手のファンケルでは、激変する市場に対応するべく、CRMの変革に取り組んでいる。既存顧客のYTV(年間取引価値)の20%アップを実現しているという。上席執行役員・通販営業本部本部長の村岡健吾氏に話を聞いた。
──御社の通販事業について聞きたい。
市場環境が大きく変化している中で、何を変革していくべきか模索している段階だ。
通販の従来の勝ちパターンとして、強い商品に広告(レスポンス広告)投資を行い、お客さまを獲得し、定期サービスへの誘導やCRM施策を通して顧客数を増やす、というセオリーがあった。しかし、新規の獲得効率が悪化し、その前提が崩れ始めた。
競合の増加や、SNSでの情報消費の変化もある。化粧品市場では、「韓国コスメ」のような新しいプレイヤーが台頭。人口が減少しているのに加えて、中でも特に消費意欲の高い「35歳以降の女性」の人口構成比も変動している。今までと同じやり方ではビジネスが成り立ちにくくなっていると言えるだろう。
LTV向上につなげる3テーマ
──市場が大きく変動する中での、御社の戦略は。
従来の勝ちパターンから脱却し、新たなビジネスモデルを磨き上げる取り組みに注力している。
この2年間の取り組みの柱としては、直営モデルの強みを生かし、顧客育成力を高め、「LTVをどれだけ上げられるか」という点に注力してきた。そのために、(1)直営モデルならではの”つながりの強化”(2)コンテンツ・サイト設計による”体験強化”(3)顧客育成を加速する、”セグメント別アプローチ”設計─という、三つのテーマに取り組んでいる。
LINEやアプリ、記事コンテンツの利用を促進し、つながりの強化を図った。よりお客さまが求める情報を届けることで、施策の効果を最大限に引き出すことを目指している。実際に、そうした取り組みを重ねる中で、アプリや記事コンテンツの利用は、お客さまの購買意欲やLTV向上につながっていることが見えてきた。
デジタルだけでなく、紙媒体の情報誌も重要だと考えている。以前は美容と健康で分冊化していた情報誌を、2024年1月から1冊に統合。ページ数を増やし、美容・健康の、より幅広い提案ができるように改善した。6月17日には、男性向けの情報誌も創刊した。
年代に合わせたコミュニケーションを強化するため、「子育て世代向け」と「シニア世代向け」の会員プログラムも展開している。
データ活用によって、それぞれのお客さまの特性や状況に合った、セグメント別のアプローチを行い、販売・サービスを展開することで顧客育成のスピードを早め、顧客基盤をさらに強固にする取り組みを行っている。
──化粧品事業についても聞きたい。
当社には、化粧品も健康食品も、幅広い商品がある。幅広い年齢層・ニーズに対応できるのは大きな強みだ。今後も、化粧品・健康食品の併売率を高める取り組みに注力していく。
直営の通販・実店舗については、もっと磨くことで、お客さまに提供する価値をさらに高められると考えている。
OMOを強化
オムニチャネル強化の施策の一例として、今年4月にメンバーズサービスをリニューアルした。
新サービスでは、お客さまの多面的な要素や行動を、メンバーズサービスのステージに、評価して反映する形に変更した。
具体的には、お客さまがLINEやアプリ、記事コンテンツに触れたという”アクション”を、スコア化した。化粧品の容器の実店舗での回収なども評価の対象だ。容器の回収は、店舗に足を運んでいただくきっかけにもなるだろう。直営店舗の強みとして、接客やカウンセリング自体が体験価値の提供になる。
通販・店舗の相互送客や連携を強化し、お互いの強みをかけ合わせることで、顧客の体験価値を高めることができると考えている。
データ活用を加速
──今後の展望は。
ダイレクトマーケティングの通販会社としての原点に立ち返り、「お客さま一人一人にどれだけ真摯(しんし)に向き合えるか」という視点をより重視して取り組んでいきたい。これまで培ってきたお客さまとのつながりを生かしつつ、点在していたデータを集約・可視化し、統合することで、顧客データの基盤を整備し、さらに進化したアプローチを目指す。
モノ(商品)を届けるだけでなく、体験やサービスを通じてブランド体験を作り、「線」にとどまらない、「面」へと広がる関係づくりを進める考えだ。