旅行代理店の日本旅行には、顧客の心をつかむ営業マンがいる。営業戦略部の平田進也氏だ。平田氏は、1980年に日本旅行に入社後、添乗員として、数々の国内や海外の旅行企画を立ち上げしてきたという。平田氏が企画したツアーは、発売するとすぐに売り切れるそうだ。平田氏が企画したツアーの年間売り上げは8億円にも及ぶという。平田氏に、営業で心掛けていることや、顧客との関係構築の秘訣などについて聞いた。
120%満足してもらう
──平田さんはこれまでどのようなツアーを企画してきましたか。
お客さまにとって、特別な非日常を体験でき、楽しい笑いがあふれるような旅を企画してきました。悩みを解消していただける旅を企画することが多いです。
最近企画したのは、「愛犬とふれあいまくりツアー」でした。ペット産業は1兆円と言われていますが、ペットと一緒にバスに乗ったりできる旅行は今までありませんでした。シートを汚される恐れなどから、バスを貸してもらうことができなかったのです。
そんな中で、柴犬を飼っている、あるバス会社のオーナーが、企画を気に入ってくれて、バスを1台使わせてくれることになりました。
ペットを隣に乗せて、お酒も飲める、上げ膳据え膳のツアーで、お客さまも大満足でした。
お客さまに「思い出」を作ってもらうことが大事です。
別のツアーでは、お客さまを、昔大ヒットした韓流ドラマ「冬のソナタ」のロケ地に、私がヨン様の姿になって連れていくという、「夏のドナタ」という旅を企画しました。
オプションを含めて約10万円のプランでしたが、1500人が参加し、1億5000万円の売り上げになりました。
──高単価な旅行プランをどのようにお客さまに提案しているのですか。
私自身が旅行を演出することが、付加価値になります。お客さまは、「どうすればあなたと一緒に旅行に行けるの?」と言ってくれます。
「あなたから買う」という関係を作るのが一番大事なのです。
お客さまは旅行の初日にとびきりおしゃれをしてきてくれます。私はそれをとにかく褒めるんです。
とにかくお客さまの満足度を120%にするように努力します。100点満点でお客さまが満足してくれるところを、120点でも130点でも取れるように、できる限りがんばります。
最高に喜んだお客さまは必ず、リピーターになってくれます。お客さまが旅行に来る前に思っていた通りの内容で終わってしまい、まずまずの満足感だと、普通にその人との関係は終わってしまいます。
「ここまでやってくれるの?」と120%満足してくれると、リピーターになって、口コミで新規のお客さまも連れてきてくれるんです。
今では年間150日、お客さまの旅行に帯同しています。年間50~70本の旅行を、私自ら企画しています。
私が企画する旅行の参加者の多くは熟年の女性です。女性は永遠に美しくいたいものです。女性は褒めてほしい気持ちはあるのです。褒めてほしいかどうかは、口に出さなくとも、目の動きや手の動きで分かります。
そうした感情をすぐ理解できる人間にならないといけません。
心の底から「素敵な服ですね。よくお似合いですね~」と言ってあげるのが大切です。お客さまは、頑張って気合を入れておしゃれしたことをすくい上げてほしいのです。それが、関係の構築につながります。
普遍の信頼を作る
──訪問販売業界では、販売員と顧客の高齢化が課題となっています。各社が若返りを図ろうと努力しています。旅行業界でも、そういったお悩みはありますか。
時代が変われば客層も変わる。それは仕方のないことです。でも、どんな時代でも変わらない「普遍の信頼」というものがあるんです。人々は信頼できるところから商品を買いたいと思っています。
今は店頭でものを買うより、スマホで何でも買えてしまう時代です。
例えば、洋服を買う場合も、店頭で試着してサイズが合うかどうかを確認してから写真を撮ってネットで買う、という時代です。
こうした流れに逆行した販売方法では、なかなか売れなくなっているのが現実でしょう。
しかし、だからといって諦めてはいけません。どんなに時代が変わっても、「愛情」や「気持ち」で売れる層は絶対に存在します。その層があるからこそ、私たちは努力するべきなのです。
──ネットやスマホが普及して、顧客との接点が少なくなっているという声も聞かれます。
それは売れない人の単なる言い訳です。売れる人はどんな状況でも売っています。大切なのは「お客さまに寄り添う気持ち」と「気遣う心」の二つです。
──平田さんご自身は、どういう気持ちで営業されているのでしょうか。
私たちは、お客さまにとっての「元気の応援団」でなければなりません。
「あなたならできる」「絶対にうまくいく」と応援することで、お客さまは元気づけられ、喜んでくれます。逆に、暗い顔で自信なさげに商品を売ろうとしても、絶対に売れません。
「営業マンは自分が商品」ということです。
自分がキラキラしていないのに、商品が売れるわけがありません。ボロボロでシワだらけの人が売る商品なんて誰も買いたくないでしょう。営業マンは「鏡」でなければいけないのです。人は楽しそうな明るいところに集まってくるのです。
この記事を読んで、多くの人が「元気」になってほしい。そして「よし、もう一度頑張ってみよう!」という気持ちになってくれたら嬉しいですね。