アスクルの登記上の設立年は1963年だが、アスクル事業を開始した創業年は1993年であり、今年30周年を迎えた。業績は右肩上がりを続け、BtoB通販ではナンバーワンの地位をキープしている。BtoC向けのECサイト「LOHACO(ロハコ)」を運営することで、ECのノウハウを吸収し、BtoBのネットシフトも順調だ。そんなアスクルの吉岡晃社長にこれまでの歩み、今後の展望を聞いた。吉岡社長の言葉から、アスクルが顧客ニーズや環境変化に本気で適応している姿勢だけではなく、エシカルな(倫理的な)サービス提供企業として積極的に顧客や取引先に提案している姿勢が見えてきた。
――アスクルの事業の始まりは?
オフィス用品メーカーのプラスの社内事業として、1992年に事業所向け通販サービスのテストマーケティングを実施した。最初のカタログには、500アイテムを掲載している。その後、1993年にアスクル事業部が立ち上がり、正式にサービスを開始した。そのため、今年がアスクル事業の30周年となる。今では、ネット上にそろえているアイテムとしては1200万点ぐらいあり、在庫を保有しているアイテム数だと20万点くらいになる。
――30年間、通販事業を運営している中で、特に影響を受けた環境の変化は?
市場の変化でいうとインターネット(ネット)の登場が大きかった。カタログ販売から始まっていたが、ネットで買い物する時代が到来し、当社でも1997年にネット注文の受付を開始した。当時はまだまだカタログがメインで、ネットもFAXなどと同じ、一つの注文のチャネルに過ぎなかった。しかし、今から思うと、このネットの登場が後々、大きく構造を揺るがすことになった。
――1997年からネット注文を受け付けるようになったのは、比較的早かったと思う。当時、ネット対応を始めた理由は?
私がアスクルに入社したのは2001年1月だが、当時ネット受注を始めた執行役員にその理由を聞いたことがある。答えはシンプルで「ネットでも注文できるようにしてくれと要望がきただけだよ」と教えてくれた。アスクルのお客さまはあらゆる業種業態におり、オフィスで働く方から、この普段利用しているパソコンで手軽に注文できるようにしてほしいという声が寄せられたようだ。その声に素直に応えて始めたのが最初だった。
――ほかにも影響受けた環境の変化はあるか?
外的な影響としては、宅配クライシスも大きかった。物流や配送に対する考え方を見つめ直す機会となった。通販は物流を集約することで効率化できるが、どんどん物量が増え、宅配会社に大きな負荷がかかっていった。その限界が来たのが宅配クライシスだったと思う。そこから特に個人への配送は見直さないといけないという方向性になり、サステナブルな物流はどうあるべきかを考えるようになった。
――アスクルは自社配送も運営しているが、それでも宅配クライシスの影響は受けたのか?
BtoBの配送では、自社でも配送するが、もともと地域ごとに地場の配送会社をメインに配送をお願いしている。それぞれが地元に密着している配送会社なので、どこかに大きく依存するという形ではない。そういった意味では、BtoBの配送はBtoCのような宅配クライシスのダメージほどは受けていなかった。
BtoCの配送は時間帯指定や不在率の高さがあり、たくさんの物量がないと効率化できない。そのため、大手キャリア依存型になっており、宅配クライシスの影響がとても大きかった。
――ネットの登場と宅配クライシス以外にも影響受けた変化はあるか?
新型コロナウイルス感染症の影響も大きかった。われわれにとっては追い風になった面もある。感染予防のため、置き配が普及した。それまで当社ではBtoBとBtoCの配送は別々にやらざるを得なかった。法人顧客は基本的に誰かしらオフィスにいるので不在がほとんどない。一方、BtoCは時間帯指定があり、全国に個配するためBtoBと共通化できなかった。安全面の懸念から置き配もなかなか浸透しなかったが、コロナ禍を機に普及したことで、BtoBとBtoCの配送の一部を共通化できるようになった。